雑誌正論掲載論文
あの騒ぎはなんだった!? NHK、オスプレイ熊本派遣報道の無責任
2016年06月25日 03:00
メディア報道研究政策センター理事 本間一誠 月刊正論7月号
六月号掲載の「一筆啓誅」の原稿を編集部に送付したのが四月十四日だつたが、まさにその夜、熊本県において後に前震とされた震度七の大地震が発生した。更に十六日未明にはM七・三の本震が発生し、前震で発生した甚大な被害に更に苛酷な追打ちをかけた。余震はいつ止むとも知れない。
当日送つた原稿の中で偶々オスプレイについて触れた。嘗てのオスプレイ騒動の際、NHKもまた、オスプレイは事故多発の危険な欠陥機だと煽つてゐたが、優秀な機材と分かつた今は口を拭つて知らん顔だと書いたばかりだつた。今度の熊本地震のやうに道路が寸断され、電気も水も断たれた山間の被災地に大量かつ迅速に必要物資を輸送するにはオスプレイが最適である。その能力の高さはハイチ地震、フィリピンの台風、ネパール地震の救援活動で十分に発揮された。
被害の甚大さを伝へるニュースを見つつ、日米両政府は調整の上で早晩オスプレイを投入するに違ひないと思つた。昨年四月に改定された新「日米防衛協力指針」(ガイドライン)に明記された第四章「日本の平和及び安全の切れ目のない確保」(E「日本における大規模災害への対処における協力」)は、東日本大震災の経験を踏まへてゐる。恐らく反日メディアは色々と難癖をつけるだらう(案の定、その通りだつたが、すでにこのことは多くの方が指摘されているのでここでは繰り返さない)が、もしオスプレイ派遣といふことになれば、NHKはこれをどのやうに報じるのだらうかと考へた。
結論から言ふと、予想通り、オスプレイが岩国基地から熊本に輸送支援に向つた四月十八日だけは「おはよう日本」「正午のニュース」「ニュース7」が短くこれを報じた(但し「ニュース シブ5時」「ニュースウオッチ9」では言及なし)が、この日のこれらのニュースを最後に、二十四日に米軍の支援活動が終了するまでの一週間、一切その活動の実際の状況も、また支援の終了も報道しなかつた。オスプレイが消えたのである。
予想通りと書いたのは前例があるからだ。NHKは余程オスプレイの活躍には触れたくないらしい。三年前のフィリピンの台風被害救援、昨年五月のネパール地震被害救援の時も、オスプレイは現地での被災者搬送、物資輸送に大いに活躍し、この二つの災害の時に派遣された自衛隊員も、オスプレイに搭乗して山間や遠隔の被災地に入つてゐる。しかし、NHKのニュースは全くこれを報じなかつた。あの時と全て同じで、明らかに意図的な情報コントロールである。しかも今度は遠いフィリピンやネパールではなく、この日本で起きた大災害救援なのだ。十分に報じられて然るべき第二の「トモダチ作戦」ではなかつたのか。
平成二十四年内に発行された本誌のバックナンバーで、当時自分が何を書いてゐたのかを調べたら、何と連続して十月、十一月、十二月、一月の各号にNHKのオスプレイ関連報道を取上げてゐた。この年の四月、石原都知事が尖閣購入計画を発表、七月、野田首相が尖閣国有化方針を表明し、八月、韓国の李明博大統領が竹島に不法上陸、九月に野田首相は尖閣の三つの島の国有化を発表した。強く反発したシナ共産党政府に操られる形で、大規模な反日デモが各地で荒れ狂つた。尖閣海域へのシナ公船による領海侵犯が常態化して行つたのもこの頃だ。連続してオスプレイ報道について書かざるを得なかつたのは、安全保障上の危機が目前で進行しつつあるのに、殆どそのことを顧慮した様子もなく、専ら沖縄で過熱するオスプレイ配備反対運動に同化したかのやうな、甚だ客観性を欠いた情緒的なNHKの報道姿勢に、極めて危険なものを感じてゐたからだつた。
右の各号には書かなかつた当時の番組の記録を一例挙げる。平成二十四年七月八日「日曜討論―森本大臣に問う オスプレイ配備・普天間問題」のゲストは元外務審議官・田中均氏と沖縄国際大学教授(元琉球新報論説委員長)・前泊博盛氏だつた。番組中、前泊氏は「オスプレイは事故率が高く、オートローテーション機能がない。十万飛行時間あたり二回の事故だから、普天間に配備すれば必ず落ちる」と断言した。今では事故率が高いといふのは統計上の数字に基づかない嘘だと知れるのだが、当時はこれがメディアで罷り通つた。オートローテーション機能といふのは、回転翼機(ヘリ)がエンジン停止の状態において、空力のみでローターを回して着陸する機能を言ふ。この機能がないから危険だといふのは、当時「赤旗」などが盛んに言つてゐたデマである。公式資料「MV―22オスプレイの沖縄配備について」の別添資料3「オートローテーション」の図解入り説明を読めば、前泊氏や「赤旗」の言説が真赤な嘘であつたことが分かる。オートローテーション機能は保持するが、これが使はれる可能性はまづないといふことについては右資料に簡にして要を得た説明がある。
前泊氏の「必ず落ちる」との御託宣から四年を経た。その間、昨年五月に技倆不足と不適切な着地点が原因(米軍調査報告)の墜落事故がオアフ島で一件あつたが、県内県外、また国外において機体の欠陥ゆゑに同機が墜落したとはついぞ聞かない。嘘、或いは不確かなことを、如何にも本当らしく言つて流布させることを普通「デマ」と言ふ。どうしてもオスプレイ「欠陥機」でないと困るのだらう。テレビで拡散されるこのデマの刷込み効果は無視できず、マスヒステリーといふ形でその後遺症は長く続く。オスプレイに関する極めて扇情的な報道の主な発信源は、反基地、反安保、琉球独立を呼号する「琉球新報」と「沖縄タイムス」で、その偏つた沖縄情報を取次いでゐるのが間違ひなくNHKである。
百%の安全が保障できないのは、自転車も含めて他の全ての乗物も同じだ。国内の交通事故死はずつと年間平均四千人を大きく越えてゐる。一日平均百人超が事故死してゐる。車は年々改良されるのに事故は減らない。人が運転するからである。かういふ常識の世界からなぜオスプレイだけが特別に除外されるのか。昭和三十五年に刊行された文藝評論家・福田恆存氏の「常識に還れ」(新潮社)は、徹底して戦後進歩主義者の欺瞞、それに踊らされる民心の軽佻を衝いてゐる。もう五十六年も大昔の本だが、我々はまだ「常識に還れ」と言ひ続けなければならないのだ。
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■ 本間一誠氏 昭和二十年生。東京都出身。皇學館大学文学部国文学科卒。国語科教師として鹿児島県、千葉県、三重県の高校に勤務。