雑誌正論掲載論文
反米自虐「ホワイト・ギルト」への伝統保守の反旗
2016年06月05日 03:00
評論家 江崎道朗 月刊正論7月号
アメリカの民主党がいかに人種差別を行い、国民の自由を弾圧し、社会主義に染まっているのか。今年7月、アメリカ大統領選挙を前に、ヒラリーと民主党を告発するドキュメンタリー映画が公開される予定だ。
タイトルは、Hillary’s America : The Secret History Of The Democratic Party(ヒラリーのアメリカ、民主党の秘密の歴史)。
監督のディネシュ・デスーザは、2012年にも『2016――オバマのアメリカ』という映画を公開し、大ヒットを飛ばした。その映画は衝撃的であった。2012年8月29日付ニューズウィーク(電子版)は、こう解説する。
《この映画を監督したディネシュ・デスーザが訴える「真実」はシンプルだ。オバマはケニア人の父から受け継いだ反植民地主義的で反資本主義的で反キリスト教的な「夢」のために、アメリカを破壊しようと突き進んでいる――。
デスーザはニューヨークのキリスト教の大学キングス・カレッジの学長。オバマ批判で知られる保守派の政治評論家でもある。
彼が監督した90分のこの映画は、オバマの知人などのインタビューやデスーザのナレーションで構成されるドキュメンタリー。目的は、オバマの大統領としての行動の裏にある本当の目的を暴くことにある》
この映画は日本ではほとんど話題にならず、古森義久記者が産経新聞のコラムで触れた程度であった。
《その内容は、オバマ氏と同じ年齢で有色人種、同じ米国の名門大学で教育を受けたデスーザ氏が、ケニア人の反植民地主義闘士だった父親や親類との絆、米国の対外政策に反対していた母親の影響、インドネシアのイスラム社会での生活などオバマ氏の過去をたどっていく。
オバマ氏が青年時代に接触した元共産主義者のフランク・デービス氏、反米パレスチナ支持派のエドワード・サイード氏、都市ゲリラ革命主唱のビル・エアーズ氏らの影響にも光をあてる。
そしてデスーザ氏は「オバマ氏の真のイデオロギー的理念は、米国がアフリカなどの開発途上国から搾取した植民地主義の結果の是正であり、そのために米国の力や富を相対的に減らすことを意図している」という結論を下す。「大統領就任直後にホワイトハウスにあったイギリスのチャーチル元首相の胸像を排除したことや、米国の一方的な軍備削減、核兵器削減もオバマ氏の真のイデオロギーの例証だ」とも断ずる》(2012年9月9日付産経新聞)
デスーザが2012年に出したベストセラー『The Roots of Obama’s Rage(オバマの憤怒の根っこ)』(邦訳なし)でも、オバマの隠された過去をこう暴いている。
★オバマ大統領の母親スタンリー・アンは、「同伴者」(Fellow Traversers)と呼ばれるほどの共産党のシンパだった。
★ケニア出身の父親オバマ・シニアは反植民地主義の思想の持ち主で、ハワイ大学在学中、「共産主義がいかにアフリカやキューバを解放したのか」を称賛していた。
★両親の勧めもあってハワイ在住の小学校から高校時代、オバマは、アメリカ共産党員のフランク・マーシャル・デービス氏(アメリカ共産党系の新聞「シカゴ・スター」紙編集長)の指導を受けていた。
★オバマ自身も、ロスのオクシデンタル大学時代、熱烈なマルクス主義者だったと言われている。
★1981年、コロンビア大学時代、オバマ自身が自叙伝『私の父からの夢』でも認めているように「社会主義者会議」に参加している。
デスーザはこうした点を指摘しながら、《過激な共産主義ムスリムで白人嫌いのオバマがアメリカを乗っ取ろうとしている》(前述のニューズウィーク)と批判したのだ。
実は我々日本人は、驚くほどアメリカの戦後史を知らない。正確に言えば、日本に伝えられているのは、アメリカの「リベラル」の歴史だけであって、アメリカの「保守主義」の歴史はほとんど伝えられていない。我々は保守主義のアメリカを知らないのだ。
それは、日本と同じくアメリカのマスコミもアカデミズムも、サヨク・リベラルに乗っ取られているからだ。
その遠因は、1929年の大恐慌において共和党のフーバー大統領が経済政策に失敗したことにある。1000万人以上の失業者が溢れ、「もう資本主義ではダメだ」という雰囲気の中で、民主党のフランクリン・ルーズヴェルト大統領は、ニューディールという名の公共事業と福祉、そして社会主義統制経済による経済再建をめざし、国民の圧倒的な支持を獲得した。
その支持を背景にルーズヴェルトは福祉と社会主義統制経済を推進するため、政府機構を肥大化させ、公務員を増やし、労働組合の結成を奨励。その結果、僅か十年で労働組合員は950万人と、実に十倍近くに膨れ上がり、その組合員たちがそのまま民主党を支える選挙マシーンとなった。
この労働組合と、社会主義を支持するマスコミ、学者、マイノリティと女性たちによる民主党支持母体――「ニューディール連合」と呼ぶ――によって戦後のアメリカ政治は乗っ取られてしまったのだ(リー・エドワーズ『現代アメリカ保守主義運動小史』明成社)。
その結果、アメリカでもマスコミや大学はリベラルの牙城となり、今もなおアメリカのマスコミは、朝日新聞のようなリベラル系によって独占されている。
続きは正論7月号でお読みください。
■ 江崎道朗氏 昭和37(1962)年、東京生まれ。九州大学文学部卒業。日本会議専任研究員や国会議員政策スタッフなどを歴任。著書に『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾―迫り来る反日包囲網の正体を暴く』(展転社)など。