雑誌正論掲載論文
新シリーズ・日本が好き! いま明かそう、「この国の国民でよかった」の真実
2016年04月25日 03:00
ニュースキャスター 辛坊治郎/ジャーナリスト 井上和彦 月刊正論5月号
井上和彦氏(以下井上) 辛坊さんとは、『そこまで言って委員会NP』(読売テレビほか)でご一緒させていただいており、いつもスタジオの雛壇コメンテーター席から司会をやっておられるのを見ていますが、あらためてこの距離でお話させていただくとなると、ちょっと緊張しますね。
辛坊治郎氏(以下辛坊) 『委員会』のスタジオは、井上さんがこられると一瞬で華やぐんです。男なのに(笑)。井上さんは明るい顔してきついことを言われる。そんなキャラクターは珍しいんですね。深刻な顔をしてきついことを言う人、明るい顔で軽いことを言う人は大勢います。でも明るい顔してきついことを言う人は、そうはいません。得がたい人材です。
十年ほど前、中国で日本人ビジネスマンが売春で摘発された事件を『委員会』で取り上げたことがあります。この問題、根が深いんです。中国は長年、厳しい一人っ子政策をとってきました。親が出生を届け出ず、戸籍の無い人たちがおよそ1300万人います。戸籍がないから、働けない。女性は、仕方なく売春をせざるを得ない。売春がはびこるのは、中国共産党政権の政策の結果なんですね。
警察(公安)当局も黙認しながら、わいろを出さない女性を時々見せしめでつかまえてきた。女性は下手すると終身刑、男性は懲役数十年です。一人っ子政策から売春をせざるを得ない女性があふれているのに、その量刑に正当性はあるのかという議論が当然あってしかるべきでしょう。
井上 一人っ子政策といい、自由主義社会ではありえません。
辛坊 当時の『委員会』は関西ローカルでしたが、井上さんと同じように明るい顔をして厳しいことを言うコメンテーターの男がいましてね。「(拘束された)男性はお金払ったんですか」と尋ねてきた。「払ってますよ」と答えると、「だったら問題ない。経済援助です。ODAと同じでしょう」と言ったんです。そのひと言でスタジオは沸き返りました。
それで、その男は勘違いをしたんですね。在京テレビ局の生放送番組で、まったく同じことを同じ言い方で言ってしまった。ウケると思ってね。そうしたら、スタジオは凍り付くわ、謝罪と訂正を求められるわと散々で、挙句はその発言が元で番組も降板になった。ちなみに、その男は、風の便りでは昨年末ぐらいまで大阪市長をやっていて、その前は府知事をやっていたそうです(笑)。
井上 あの方ですね(笑)。
辛坊 あの方です。とにかく大阪と東京のメディアはそれだけ違う。東京の番組なら「海外に行って女性を買うなんてけしからん。以上、終わり」です。
『委員会』をやっていて、つくづく思うことがあります。関東の人は関東が情報の中心地だと思っているけれど、実は関東こそ巨大な情報空白地域ではないか、とね。在京メディアは本当のこと、議論すべきことを伝えていません。当たり障りのない範囲で表面だけをさっとなでて終わり。経済でも政治でも権力に近いというところで、自主規制が強くなるんです。『委員会』は大阪発の関西ローカルで始めましたので、言える範囲が違うんです。
井上 同感です。私も米軍の新型輸送機、MV―22オスプレイの沖縄配備問題で同じ経験をしました。オスプレイは当時、配備反対の大合唱で、メディアも「すぐ墜落する危険な機体だ」とこぞって報じていました。「未亡人製造機」なんてレッテルまで貼られて。そんな中、在京キー局の番組で、オスプレイの危険性について話してくれという依頼を受けたんです。私はオスプレイの本当のデータや運用実績を知っていましたから、危険ではないという事実を話したかったんですが受け入れられず、結局出演は取りやめとなったことがあります。
それで、もやもやした思いを抱えて『委員会』に出て、ふっと口に出たのが「オスプレイでも、メスプレイでも、沖縄はなんでも反対するんですよ!」。この時の放送はなぜか沖縄でも話題になったようです。でも、東京のテレビなら放送されなかったでしょうね(笑)。
辛坊 編集で削除ですね。別に圧力がかかるわけでもないんですよ。自主規制なんです。
井上 圧力じゃないんですね?
辛坊 この仕事を三十年以上やってきましたけれど、政治や経済方面の発言に圧力かかったことは一、二回しかないですね。うち一回は、沖縄の米軍普天間飛行場の移設をめぐって、発言をくるくると変遷させた鳩山由起夫首相(当時)を「宇宙人だ」と言ったら、東京の局から、「鳩山総理に対して宇宙人という言葉を使ってはいけない」という強硬なクレームが来ました。
民主党政権時のほうが、本当の意味の言論規制はいまより厳しかった。安倍政権の悪口をどれだけ言っても、どこも何も言ってきません。世間は逆だと思っているようですが。
言論がおかしいといえば、EUが大量の難民を受けて入れている現状の否定的側面を描いた漫画家が「ヘイト」だと批判され、サイン会が圧力でつぶされるということがありましたよね。私はヘイトスピーチには嫌悪感を覚えますが、これはおかしい。作家の百田尚樹さんは、メディア批判を政治家の前で話しただけで散々批判されました。
井上 なぜ民間人がメディア批判をするのがダメなのか、訳が分かりません。
辛坊 アメリカでメディア研究を一年間して分かったのは、社会主義、共産主義の国ほど厳しい言論弾圧をするということです。そうしないと体制がもたない。仕事の内容から達成目標まですべてを国家が規制する社会なんて、一人一人が意見を言い始めたら維持できるわけがない。でも共産主義国だけじゃなく、さきほどの漫画家や百田さんを批判する日本の左派の人たちも、言論の自由を守れと言うわりには平気で言論弾圧めいたことをします。矛盾してませんか。
井上 彼らにとっては自分たちこそが「正義」だから、言論弾圧をすることも「正義」なんですよね。
辛坊 自分の考えとは異なった言論でも、それを言う権利は認めるべきでしょう。でも誰かの発言が間違いだと思うと、発言する権利すら認めないとばかりに攻撃する人たちがいる。間違いか正しいかも議論せず、聞いた瞬間に駄目だ、発言するなというところまでいく。サイン会をつぶすっていうところまでいく。講演会をつぶすっていうところまでいく。これは民主主義社会としておかしいよねって思うことはありますね。
井上 『委員会』はもともと、やしきたかじんさん(故人)の冠がついた番組で、タブーなしで自由にモノを言おうや、というたかじんさんの思いを辛坊さんが継いでやっていらっしゃる。
辛坊 たかじんさんのような人はもう出てきませんよ。たかじんさんは空間を作る人なんですね。『委員会』で言えば、たかじんという人がいるだけで、コメンテーターもゲストのみなさんも自由に発言できる雰囲気になるんです。司会者が率先して暴走しますから(笑)。
井上 私は、たかじんさんから番組に呼んでいただいて、・軍事漫談家・という肩書きを付けていただきました。「そんな職業は一人しかおらんやろ」「世界一だ」と言っていただいて、以来ありがたく使わせていただいてます。
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■ 辛坊治郎氏 昭和31(1956)年生まれ。早稲田大学卒業後、讀賣テレビ放送にアナウンサーとして入社、情報番組部長、解説委員長等を務めた。現在はキャスター、ニュース解説者として「そこまで言って委員会NP」などのテレビ番組にレギュラー出演中。シンクタンク「株式会社大阪綜合研究所」代表。著書に『ニュースで伝えられない この国の正体』(KADOKAWA)、『冒険訓』(光文社)など多数。
■ 井上和彦氏 昭和38(1963)年、滋賀県生まれ。法政大学社会学部卒業。軍事・安全保障・外交問題などをテーマとした数多くのテレビ番組のコメンテーターを務める。軍事漫談家。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。国家基本問題研究所企画委員。著書に『日本が戦ってくれて感謝しています』(産経新聞出版)、『ありがとう日本軍』『パラオはなぜ「世界一の親日国」なのか』(PHP研究所)など多数。