雑誌正論掲載論文

「民共」協力に秘められた共産党の打算と野望

2016年04月05日 03:00

政治評論家 筆坂秀世 月刊正論5月号

 2月19日、5野党(共産党、民主党、維新の党、社民党、生活の党)の5党党首会談が行われ、次の合意がなされた。第1は、安保法制の廃止と集団的自衛権行使容認の閣議決定撤回を共通の目標とする。第2は、安倍政権の打倒をめざす。第3は、国政選挙で現与党およびその補完勢力を少数に追い込む。第4は、国会における対応や国政選挙などあらゆる場面でできる限りの協力を行う。この合意について、共産党は「新しい画期的な政治局面が開かれました」(2月22日、全国都道府県委員長・参院選候補者会議への志位和夫委員長の報告)としている。

 この報告には、「この局面を切り開いたのは共産党だ」という自負心がにじみ出ている。実際、共産党の「国民連合政府」と選挙協力の提案がなければ、このような5党合意にまで行き着かなかったであろう。この報告で志位氏は、次のようにも語っている。

「(5党合意について)政府・与党からの反応もさっそく伝わってきました。自民党の二階(俊博)総務会長は、19日の記者会見で、『共産党がそういう戦法で来るなら、絶対に負けないよう自民、公明両党が団結して徹底的に戦う』と強調し、対抗心をあらわにしました。おおいに受けて立とうではありませんか」。

 安倍首相が夏の参院選は「自公対民共の対決になる」と発言し、民主党側が「レッテル貼りだ」と反発しているのと大違いである。共産党は、反発するどころか「その通り。自公対共民対決」という気構えなのである。実際、共産党はこれまで「自共対決の時代」と自ら語ってきたくらいである。

 共産党はこれまで何度も暫定政府構想を提案してきたが、これまでは全く見向きもされなかった。だが今回は大きな反響があった。単なる政府構想の提案ではなく、大胆な選挙協力の提案が含まれていたからである。生活の党の小沢一郎氏がいち早く飛びつき、この提案を歓迎した。民主党の岡田代表も政権協議には難色を示したものの、選挙協力には大いに関心を寄せた。

 このような反応は、共産党も織り込み済みであったろう。そもそも安保法制廃止などに絞った政府構想など非現実的である。安保法制を廃止したら、連立を組んだ政党間で共同綱領はなくなってしまい、連立を解消し、解散総選挙をせざるを得なくなるのが共産党の「連合政府」構想である。財政、経済、外交、安全保障で一致しない政党の連立など、政治に大混乱をもたらすだけである。だからこそ共産党は、政権協議への民主党の冷ややかな対応が分かるや否や簡単に「連合政府」構想は「横に置いて保留にする」ことを決めたのである。狙いは、民主党との選挙協力にあったということだ。

 民主党は、このままいけば参院選での惨敗は必至の情勢にある。今年改選を迎える2010年選挙で民主党は、比例で1845万票・16議席、選挙区で2276万票・28議席を得ていた。だが政権から転落した後の2013年選挙では、比例で713万票、選挙区で865万票にまで激減している。どちらでも実に1000万票以上票を減らし、当選者はわずか17人であった。

 共産党の選挙協力はノドから手が出るくらいに欲しいはずである。ここにくさびを打ち込んだのが今回の選挙協力提案である。

 共産党は伝統的に、国政選挙では全国ほぼ全ての選挙区に候補を立てて戦ってきた。一時、党の事情で空白区をつくったことはあったが、今回のような全国規模での選挙協力は党の歴史上、初めてのこととなる。

 参議院の1人区は、32選挙区ある。このうち熊本県では野党5党の推薦候補が決まり、沖縄県でも共産党や沖縄社会大衆党などが前の宜野湾市長を推すことが決まっている。共産党としては、定数が複数の選挙区は、すべて公認候補を立てる方針であり、1人区は他党との合意ができれば共産党候補を降ろすこととしている。

 先の報告で志位氏は、「参議院選挙1人区で、わが党が、他党の公認候補者および推薦候補者を応援する場合は、中央段階での協議と確認を踏まえて、わが党の県委員会と候補者本人・県連との間で、・安保法制廃止、閣議決定撤回を選挙公約とすること、・選挙協力の意思があることを確認することを、その条件とします」と述べ、そのハードルをきわめて低いものにしている。

 野党5党で安保法制廃止法案をすでに国会に提出しているわけだから、この条件は他の野党も本来簡単に飲むことができるものである。共産党からのボールは、すでに民主党に投げられている。あとは民主党の対応次第ということである。

 1人区での選挙協力が増えれば増えるほど、共産党にとっては大きなプラスになる。

 何よりも安保法制に反対した人々にとって、共産党が身を捨てて野党共闘に取り組んでいるという姿をアピールできる。メディアも大きく取り上げることが確実だ。安倍首相が「自公対民共対決」と述べたように、共産党の存在感は大いに増している。

 共産党という政党は、実は共産党攻撃が無くなった時が一番の危機なのである。それは共産党が相手にされていないということだからだ。70年代に共産党が大躍進を遂げた時には、自民党などから「自由社会を守れ」という大々的なキャンペーンがなされた。だが00年代に入って長い低迷期が続く中で共産党への攻撃は鳴りを潜めるようになった。

 2009年8月の総選挙で民主党が自民党から政権を奪った時もそうだった。政権交代が焦点となり、共産党の存在に見向きもされない状態が続いた。この時、共産党は「意図的な共産党無視作戦が行われている」などと八つ当たり気味の批判をしていたほどである。毀誉褒貶はあったとしても、注目されること自体が、共産党にとってはプラスということだ。

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■ 筆坂秀世氏 昭和23(1948)年、兵庫県生まれ。県立伊丹高校を卒業後、三和銀行に入行。日本民主青年同盟の活動をへて日本共産党に入党。平成7年、参議院議員に初当選。政策委員長に就任する。2期目任期中の15年、党内の権力闘争に巻き込まれ、議員を辞任、党の要職もすべて解任される。17年、日本共産党を離党。著書に『日本共産党』『悩める日本共産党員のための人生相談』『日本共産党と中韓 左から右へ大転換してわかったこと』など。