雑誌正論掲載論文
世はこともなし?最終回 「七人の侍」は教える
2015年10月25日 03:00
コラムニスト・元産経新聞論説委員 石井英夫 月刊正論11月号
横浜で日本ディベート研究協会とシンクタンク戦略大学を主宰する北岡俊明氏は、憂国の熱血漢である。直情径行の梟雄と呼んで、いいかもしれない。
昨年はベトナム戦争で韓国軍が1万人から3万人のベトナム住民を虐殺したとする事件を現地で踏査し、『韓国の大量虐殺事件を告発する』(展転社刊)を世に問うた。偽善で不誠実な国家(韓国)の正体を暴くという信念がほとばしっていた。
とにかく、いかなる権威にも恐れず、ひるまず、おもねらずをモットーにしているそうだ。若い仲間たちとの研究や討議の報告書をその都度送ってくれる。その平成27年夏号を読んでいて、思わずひざを叩いたのだ。「ご乱心めさるな瀬戸内寂聴先生」の小見出しがついている。
集団的自衛権と安保法制問題では、例のごとく朝日新聞を先頭に「戦争法案」だの「戦争に巻き込まれる」だのといった反戦合唱が渦巻いている。北岡氏は四国徳島の出身で、作家の瀬戸内寂聴さんは徳島・新町小学校の大先輩だという。そこで寂聴先生と呼ぶのだが、その先生が「軍靴の音が聞こえる」とのたまったのには、イスから転げ落ちそうになったというのである。
そして設問している。
「寂聴先生。軍靴の音は中国軍の軍靴ですか、それとも北朝鮮軍ですか。あるいは韓国軍か、ロシア軍ですか、と聞いてみたい」
まさにその通りではないか。9月3日の北京では史実無視の反日軍事大パレードがあった。北朝鮮からは数百発のミサイルが日本を狙っている。日本を取り巻く北東アジアの国々こそ軍備大拡充を進めているのだ。
そして「ノーベル賞の益川敏英先生までが反戦を叫ぶのには、益川先生、晩節を汚しますよと諫言したい」と書いていた。
晩節を汚すといえば、トラック野郎の菅原文太までが古色蒼然のゾンビのように反戦を叫んだ。ところが高倉健はそんなことは決してしなかった。「だから永遠のスターである」と報告書はオマージュを贈っていた。
「いざ鎌倉という時、防衛戦争を忌避している限り、北方領土も竹島も拉致家族も返らず、尖閣諸島も危ない。平和は軍事力によって保たれているという常識は日本には通用していない」
北岡氏はそう書いて「寂聴先生も益川先生も、暑さでどこか狂っている」と思い切ったことを言っている。直情径行が誤解されることもあるが、これは正論だろう。
折からフランスの人口学者エマニュエル・トッド氏が8月10日付日経1面の連載企画『戦後70年/これからの世界』で、こう語っていた。
「日本の再軍備を懸念する人がいるが、中国との関係が緊張する中、もし私が安倍首相なら、自国の過去の軍事行為を厳しく自己批判したうえで防衛力を一段と強化する」
トッド氏は『最後の転落』(1976)でソ連の崩壊を予言し、『帝国以後』(2002)で米国が衰退期に入ったことを指摘した。そういうリベラル派さえそういう助言をしているのである。
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■ コラムニスト・元産經新聞論説委員 石井英夫 昭和8年(1933)神奈川県生まれ。30年早稲田大学政経学部卒、産経新聞社入社。44年から「産経抄」を担当、平成16年12月まで書き続ける。日本記者クラブ賞、菊池寛賞受賞。主著に『コラムばか一代』『日本人の忘れもの』(産経新聞社)、『産経抄それから三年』(文藝春秋)など。