雑誌正論掲載論文
世はこともなし? 第123回 笑いのタネをつぶすな
2015年08月25日 03:00
コラムニスト・元産経新聞論説委員 石井英夫 月刊正論9月号
先月号の小欄『笑韓でいきましょう』で、明治日本の世界遺産登録にいいがかりをつけた隣人にうんざりする話を書いた。するとその後すぐ、隣人は手のひらを返して登録に協力しましょうといってきた。ところが土壇場でまたもやイチャモンをつけ、最後にようやく登録が実現した。
そうなのだ。いいがかりの理不尽さは、日本ばかりでなく、世界の笑いものになる。そのことに気がつき、さすがに気恥ずかしくなったのだろう。コーシン(高信太郎)流笑韓の効果だとうぬぼれたことだった。しかしそうであるにしろ、そうでないにしろ、この隣人とはこれからも「助けず、救わず、かかわらず」でいかなければならない。
それはともかく、やはり笑いが人間の健康にとってだけでなく、世の中への対応にとっても重要であることが立証された。実際、この世には笑いたくなることがいっぱいある。いや笑わずにいられないことだらけだ。
例によって友人M君が新聞コピーを送ってくれたのだが、6月23日付東京新聞1面トップ記事がそれである。さいたま市の三橋公民館というところの月報が、地元の俳句会会員の俳句を掲載するのを拒否した。そのためその作者の女性(74)が市などを相手どり、憲法で保障された表現の自由を侵害されたとして地裁に訴えた。200万円の損害賠償などを求めている、という。
そうか、けしからんではないか。どれ、どんな句が掲載を断わられたのかとこれを見れば「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」。
ま、なんと政治臭むきだしのイデオロギー俳句であることか。まゆをつりあげ、黄色い声をあげている女性の顔が目に浮かぶ。
作者は「平和を祈ったなんでもない私の句が、なぜ(掲載を)ダメだといわれるのか。このまま納得はできない」といっているそうだが、ばかも休み休みいえ、ダメなのは当たり前である。掲載紙は公民館の公報だ。「九条守れ」は彼女たちの政治的主張であり、イデオロギー的要求だろうが、世の中には逆に「九条廃止」と叫び、要求している人たちも数多くいる。世論は二分されているわけで、税金でこしらえている公民館の月報が、濃厚な政治的主張のどちらかに加担するわけにいかないのは明白ではないか。
それなのに「見過ごしてはいけない」という作者の私憤を、そのままヒステリックな見出しにして報道する新聞には、あきれて笑ってしまったのである。
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■ コラムニスト・元産經新聞論説委員 石井英夫 昭和8年(1933)神奈川県生まれ。30年早稲田大学政経学部卒、産経新聞社入社。44年から「産経抄」を担当、平成16年12月まで書き続ける。日本記者クラブ賞、菊池寛賞受賞。主著に『コラムばか一代』『日本人の忘れもの』(産経新聞社)、『産経抄それから三年』(文藝春秋)など。