雑誌正論掲載論文

私の「反知性主義」的考察 時代遅れの知性が国を滅ぼす

2015年08月15日 03:00

高須クリニック院長 高須克弥 月刊正論9月号

 よく医者を理科系の「知性」を司る知識人のように誤解する人がいるけれど、医者の究極的な仕事は患者から信じられるということで、僕は、むしろ宗教家やシャーマンに近いと思っています。

 医者はとにかく患者に信頼されなければならない。どんなに最高の医療を施された患者も、医者に不信感を抱けば、自分の病気が治ったことも信じられないし、逆に医者を信頼すれば、どんな治療にも安心、満足する。極端に言うと、どんな藪医者でも、患者に「いい先生だ」と信じさせれば、名医になれるのです。

 もちろん、そこには盲信の危険もある。よく手塚治虫の漫画「ブラックジャック」を名医の代表のように信じる人がいますが、その一例かもしれません。漫画としての価値は別にして、美容整形外科医として言えば、自分の顔をあんなつぎはぎの跡だらけにする手術は稚拙極まりない。しかし、崇拝する読者には名医なのです。

 昔の医学など現代から見れば間違いだらけだから、名医と呼ばれた人たちも見当外れな治療をしていたはずです。しかし患者には信頼されたから、名医と呼ばれた。患者は死んで、ようやく見当外れの治療に気づく、いや、死後も気づかなかったかもしれませんが、それもやむを得ないのです。医者が患者を丸め込めばいいと言っているのではありません。医療も時代に応じて限界があり、最後は患者にそれを受け入れてもらわなければならない。そのために医者に必要なのが信じてもらうこと。医者の「知性」を最後に支えるのは、「信」なのです。

□ □ □

 医学の世界には、内科医が本道、外科医は外道という考え方が根強くあります。その考えに従えば、僕のような美容整形外科医は、ウルトラ外道でしょう。

 なぜ外科は外道か。昔、血が忌み嫌われた名残なのか、メスで人体を切る手術は感染症のリスクも高かったことが恐れられたのか、はっきりしたことは言えませんが、実際に、外科医は皇室にも避けられ、宮中に入れない時代がありました。天皇のお側に侍るのは、脈を取ったり薬を出したりする内科医だけ。当然、天皇に外科手術を施すことも許されなかった。天然痘が流行していた幕末、孝明天皇に「玉体に穢らわしい牛の膿を植える」外道の医術、種痘をお薦めする臣などいるはずもなく、天然痘に苦しまれました。

 現代から見ると「反知性」的にみえますが、当時はそれが正しいと信じられていたのです。そういう考え方が変わったのは、昭和天皇が外科手術を受けられたのがきっかけでした。

続きは月刊正論9月号でお読みください

■ 高須克弥氏 昭和20(1945)年、愛知県生まれ。昭和大学医学部卒業。同大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。昭和大学客員教授。美容整形の第一人者で、浄土真宗の僧侶でもある。『その健康法では「早死」にする!』など著書多数。