雑誌正論掲載論文

日の丸船団、尖閣諸島に出動す

2011年08月01日 03:23

 尖閣諸島の海と空の色は、胸に沁み込む青だった。底無しの青い空に太陽が輝き、群青の波がざわめく海原に、屹立するように岩山を突出させ、尖閣諸島は私たちの眼前に姿を現した。「尖閣」(尖った城)と名付けられたごとく、大陸を睨む孤独な防人(さきもり)のように、静かに、しかし、断固とした強い意志で、その存在を主張していた。(月刊正論9月号

 次第に近づいてくる島々を見ながら、ああ、これは戦後日本そのものだなと思った。

 今、尖閣諸島は我が国固有の領土でありながら、無人の島として、政府から立ち入りを許されていない。尖閣諸島は、主権はあるのに主権の行使が出来ない集団的自衛権に似ている。集団的自衛権は厳然と存在しているのに、それを行使出来ないのは、飛行機の切符と席はあるのに座れないようなものだと誰かが言っていた。尖閣がそれである。戦後日本の歴代全ての政府は、長い間、この現実を正面から引き受けず、事なかれ主義で尖閣諸島の防衛をおざなりにして来た。この臆病と及び腰が、逆に中国の侵略の誘い水となっている。それに政治家たちは気づかない。いや、気づいていても知らぬふりだ。尖閣の島々は、本当にそれでいいのかと無言で訴えているように思われた。肌に照りつける尖閣の強い日差しのごとく、その沈黙の訴えは私たちの胸に痛く突き刺さった。

 政府が国防の義務を果たさないなら、私たち日本国民が自ら国防の義務を果たすしかない。その決意で行われたのが、この7月初めの八重山漁協所属の漁船10隻、約30人の石垣漁師による尖閣諸島沖の漁業活動である。尖閣諸島周辺海域は、はるか昔から先島諸島(石垣、与那国、宮古、西表島等)の漁師たちの漁場であり、生活の場であった。今回の日の丸漁船団の尖閣遠征は、その実効支配の現実を実際の漁業活動を通じて証し、これを映像化して世界各国語のナレーションを入れ、日本の主権と領有、実効支配を世界中にアピールしようとするものだった。もし中国が侵略してきた場合にも、領土領海への侵略だけでなく、日本の漁師の生活の場を奪う不当な侵略行為として、世界中にアピールできると考えた。

 案の定、日の丸漁船団の尖閣漁業活動は、中国外務省の即座で過敏な反応を引き起こした。洪報道局長は「釣魚島近辺での日本のあらゆる行動は違法かつ無効だ」と強調し、直ちに漁船を撤退させるよう日本側に抗議し要求したと発表したのである。撤退させるよう要求したということは、現在、尖閣諸島周辺が日本の実効支配下にあることを公式的に認めたのである。これだけでも私たちは大きな成果を挙げたのだ。

 全ての始まりは、私たち「頑張れ日本全国行動委員会」が自力で漁船を所有しようと決意した時からだ。4月初頭、常任幹事会で私たちは漁船を購入、所有し、それを使って行動を起こそうと決めた。日本国民が尖閣諸島へ合法的かつ自由に行ける「足」がどうしても必要だと考えたからだ。同時に、草の根国民でも尖閣防衛の義務を果たす「草莽崛起」が出来ることを、多くの戦後日本国民に明らかにしたかった。(続きは月刊正論9月号でお読みください

(略歴)水島 総氏

 昭和24(1949)年、静岡県生まれ。昭和47年、早稲田大学第一文学部卒(ドイツ文学専攻)。フリーランスのディレクターとして数多くのテレビドラマの脚本・演出を手掛け映画にも進出。日本映画監督協会会員、日本脚本家連盟会員。平成16年、「草莽崛起」と「敬天愛人」をスローガンに日本文化チャンネル桜を設立、代表取締役社長をつとめる。映画の主な監督作品は「奇跡の山」「南の島に雪が降る」「南京の真実」(第一部)など。