雑誌正論掲載論文

野田首相に問う~民主党議員が覚悟の諫言から

2011年11月01日 03:58

 9月27日夕、民主党税制調査会総会-。総額11兆2千億円の復興増税案をめぐる攻防は、ヤマ場をむかえていた。前日の総会では発言者34人のうち政府案への賛成はわずか11人。過去3日間の議論は、反対意見が大半を占めていた。だが、少数派ながら税調などの主要ポストを押さえる“増税派″は、増税の期間や開始時期について一切の妥協を拒否。大量の“動員″をかけて勝負に出ようとしていた。(月刊正論12月号/民主党衆議院議員・デフレ脱却議連事務局長、宮崎岳志=みやざき・たけし)

 一方、私たち“反増税派″も、党内多数の支持を背景に食いさがった。

「増税はデフレを深刻化させ、逆に税収を落ちこませる」「インフラ再建は60年返済の建設国債でまかなうのが常識。短期の増税などありえない」「政府資産の売却、特別会計の埋蔵金で財源は確保できる」-

 開会から1時間余り。18人が発言し、反増税派がやや優勢。さらに発言を求める手が林立するなか、議論はいきなり打ち切られた。

「経済への影響を心配する意見に配慮し、個人住民税均等割の増税時期を1年先送りして2014年6月としたい」

 藤井裕久税調会長が宣言し、司会が「これでご一任を」と声を上げる。ぱらぱら、とまばらな拍手がおこる。本来なら盛大な拍手で「了承」が演出されるはずだが、唐突すぎる提案は“動員組″さえ困惑させていた。

 最前列に陣取っていた私は立ち上がり、声を張り上げた。

「待ってください! これでは、まったく納得できません!」

 続いて何人かが「反対!」と叫んだ。

タネの割れた手品

 妥協案といえる代物ではなかった。

 政府の増税案は所得税・法人税・たばこ税が中心だ。個人住民税均等割は地方税だし、金額も全体の70分の1足らず。当然、まったく論点になってこなかった。

 そればかりか、私たちからみれば、あまりに「見え透いたワナ」でもあった。

 住民税は所得の翌年に納める後払い方式なので、通常、住民税は所得税の翌年に引き上げられる。ところが原案は異例にも、同じ年に引き上げる計画になっていた。これでは、最初から「1年先送り」という形だけの妥協案を出す意図で、あえて「1年前倒し」しておいたと見られても仕方あるまい。

 タネの割れた手品には付き合えない。ゆえに、「個人住民税の先送り」を求める声は出ず、妥協案は「要求もない部分を譲る」すっとんきょうな内容になったのだろう。

 強行にも作法がある。意見が出尽くすまで議論し、合意の道を探り、少なくとも過半数の理解を得て押し切る-そんな体裁すら整えない粗雑な手法に、私は憤り、役員につめ寄った。

「党内の声は反対が大勢だ! こんなことは許されませんよ!」

 藤井会長が激昂する。

「君はやりすぎだ! 無礼だぞ。紳士的になれ!」

「だったら紳士的に運営してください!」

 反増税派の議員らが、次々に叫ぶ。

「採決してくれ!」

「多数決を取れ!」

「挙手させろ!」

 それを無視して司会が告げた。

「…一任されました。お疲れさまでした」

 税調役員と動員組が一斉に退出していく。多数決でもなければ、拍手で了承という形式すら踏まない。全員の意見も聞かず、合意を得る努力もしない。情理を尽くした説得も、筋の通った説明もする気がない。

「…なぜ同じ過ちを繰り返すのか」

 この党内合意のずさんさが、菅内閣崩壊の根本的な原因ではないか。もしかして、いまだに理解していないのか-。

 私は慄然として立ちつくしていた。

がらがらの会場

 引き続き同じ会場で、政策調査会「第三次補正予算に関する懇談会」がひらかれた。

 ここでは、「政府保有株を売って増税を減らす」「復興債の返済期間をのばして1年あたりの増税幅を圧縮する」などが議論されていた。いわば、税調と表裏一体だ。

 だが、動員組の姿はなかった。お役目ご苦労、さようなら。30以上の席がぽっかりと空き、がらがらの会場には反増税派を中心に40人余りの議員がのこされた。

 私たちには動員ができない。せいぜい考えの近い議員に出席をお願いするだけだ。関心のない議員に出席を指示する力はない。いつ強行されるかも分からないから、連日、地道に足を運んでもらうため力をつくすしかない。

 政治力を使い、強行の瞬間にピンポイントで出席指令を出せる増税派に組織力でかなうはずもない。だが、やり方が露骨すぎないか。

 私は声を荒らげた。

「部屋を見てくれ。がらがらじゃないか! 税調で一任を取れば中身はどうでも良いのか。動員で嫌々、来させられたとしても、最後まで議論に付き合うのが礼儀じゃないか。嘘でも『上の命令で出席したわけじゃない。自分の信念で、意見を伝えにきた』と言い張るのが国会議員のプライドじゃないのか!」

 私は税調を取材する新聞記者から前夜、送られてきた携帯メールを思い出していた。そこには短く、こう書かれていた。

「残念ながら、稚拙な政治手法の限界を感じる昨今です」(続きは月刊正論12月号でお読みください

宮崎岳志氏

 昭和45(1970)年、群馬県前橋市生まれ。中央大学法学部卒業。上毛新聞社に入社し、社会部などの記者として活躍。平成19年に退社し、21年の総選挙に群馬1区から民主党公認で出馬、初当選する。新聞記者時代から鷲田旌刀のペンネームでライトノベルも執筆しており、著書に『つばさ』『放課後戦役』など。