雑誌正論掲載論文

世はこともなし? 第115回 新聞ほどの法螺吹きは

2014年12月25日 03:00

コラムニスト・元産経新聞論説委員 石井英夫 月刊正論1月号

 漱石の『坊っちゃん』のなかに、新聞への悪態(あくたい)がある。

 物語の終わり近く、日露戦争の祝勝会の休みに起きた中学校と師範学校の生徒の乱闘事件に、「おれ」と山嵐は巻き込まれる。仲裁に入ろうとして騒動のまきぞえを食ったのだが、これも赤シャツが仕組んだ策謀だった。ところが翌日の四国新聞にでかでかと書き立てられる。

「中学教師堀田某と、近頃東京から赴任した生意気な某とが、順良なる生徒を使嗾(しそう)してこの騒動を喚起せるのみならず、両人は現場(げんじょう)にあって生徒を指揮したる上、漫りに師範生に向って暴行を擅(ほしいまま)にしたり…」

 あくる朝、「おれ」は婆さんから見せられた新聞を丸めて庭へ投げ捨て、それでも飽きたらず、わざわざ後架(こうか=便所)へ持っていって捨てた。そしてこう述懐する。

「新聞なんてみな嘘(うそ)を吐(つ)くもんだ。世の中に何が一番法螺(ほら)を吐くといって、新聞ほどの法螺吹きはあるまい。…近頃東京から赴任した生意気な某とは何だ。天下に某という名前の人があるか」

 漱石は明治39(1906)年の『坊っちゃん』で新聞をくそみそにけなしたくせに、その翌年、朝日新聞の主筆池辺三山に乞われて朝日に入社する。入社したのは朝日が大学教授なみの収入を保証したからだという。そして『虞美人草』以後、その作品のすべては朝日新聞を舞台に発表したのだから、何をかいわんや。

 それから百余年、いま漱石がこの世で、朝日新聞の一連のていたらくの現状を見れば、どんな悪態を吐くのか、聞いてみたい。

 それにしても、である。つくづくと思わないわけにはいかない。朝日という新聞は、なぜ性懲りもなく日本と日本人を貶める記事ばかり書くのか。最近の産経によると、今夏、朝日は沖縄戦について「日本軍は住民を守らなかったと語り継がれている」などとする中学・高校生向けの教材を作成した。それを九州各県に配布していたという。

『正論』10月号にも書いたのだが、朝日人といわれる記者たちは日本が嫌で嫌でたまらぬ人種であるらしい。日本を悪しざまにののしり、祖国をひどく貶めることが国際的な教養で、良心的な行為だと錯覚している。それが知識人的なことだと思い上がっているのである。

 一体、この病理現象はどこからきているのか。西尾幹二氏にいわせると「自国や自民族の文化を蔑み、少しでもネガティブに表現することが道徳で、自らの美意識に適い、文化的な行為であるという錯覚、それに快感が伴うという病的な心理」(『WiLL』12月号)であるそうだ。

 また徳岡孝夫氏はこういっている。

「私が思うに、慰安婦問題の根源は、朝日記者が自らは日本人というより朝日人だと自覚していることにある」(『清流』12月号)

続きは正論1月号でお読みください

■ コラムニスト・元産經新聞論説委員 石井英夫 昭和8年(1933)神奈川県生まれ。30年早稲田大学政経学部卒、産経新聞社入社。44年から「産経抄」を担当、平成16年12月まで書き続ける。日本記者クラブ賞、菊池寛賞受賞。主著に『コラムばか一代』『日本人の忘れもの』(産経新聞社)、『産経抄それから三年』(文藝春秋)など。