雑誌正論掲載論文

遵法精神なき外国人への生活保護支給を憂う

2014年11月15日 03:00

衆議院議員 桜内文城 月刊正論12月号

 生活保護の受給実態をめぐって国民の間に不信感がくすぶっています。近年、生活保護をめぐり首を傾げざるを得ない出来事が相次いでいるからです。実際には生活保護を受けなくてもいいような方が長年にも渡って不正受給していたケースなども散見されました。こうした事例を見聞きするたびに本当に厭な気になり、これでいいのか、という思いに駆られます。

 暮らしに困窮する人に手をさしのべる制度本来の趣旨に何も異論はありません。しかし、そうした善意を逆手に取ったり、そうした制度の趣旨を踏みにじるような不正受給は許されないと思う。いったん受給を始めると、自立への努力をしなくても済んでしまう。これも生活保護の構造的な欠陥でしょう。こうした問題点も指摘されてきました。

 外国人も課題の一つです。例えば来日して間もない中国人が生活保護の受給を申請してきた。一族郎党まで目を疑うばかりの人数で申請が行われ、それが認められてしまった――そうしたケースも民主党政権時代にはありました。

 そうしたなか今年の7月18日、生活保護について外国人がその対象であるかどうかが争われた民事訴訟において最高裁第二小法廷が「外国人は生活保護法の対象ではなく、受給権もない」とする判断を示しました。

 生活保護は憲法二五条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」との規定を踏まえた制度であることをご存じの方も多いと思います。生活保護は日本国籍を持つ国民のための制度です。外国人に支給することは本来、想定されていない。今のケースなどを野放しにしていると、日本国民の貴重な税金が食い物にされてしまいますし、本来保護しなければならない、本当に困っている人達を救うという制度そのものの維持が難しくなりかねません。

「当分の間」が六十年続く愚

 それにしてもなぜ、国民のための大切な生活保護が外国人に現実に支給されてしまうのでしょう。それは、厚生省が出した一通の通知に原因があります。生活保護法の第一条は「この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」となっている。戦後の昭和21年の旧生活保護法では全ての在住者が対象となる内外無差別の原則を採っていました。それを昭和25年の改正の際、国籍条項を加え国民でなければそもそも受給できない仕組みにしたのです。

 ところが、昭和29年5月8日に厚生省が社会局長名で通知を出しました。通知の標題は「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」。通知の冒頭、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置については、貴職におかれても遺漏なきを期しておられることと存ずるが、今般その取扱要領並びに手続きを下記のとおり整理したので、了知のうえ、その実施に万全を期せられたい」としたうえで次のように述べているのです。

「1 生活保護法(以下単に「法」という)第1条により、外国人は法の適用対象とならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて左の手続きにより必要と認める保護を行う(以下略)」

 実はここで述べられた「当分の間」というのが今に至るまで一度も見直されることなく続いてきたというわけです。事勿れ主義といえばそれまでですが、つまり日本人も外国人も同じように扱う。これが戦後一度も見直されることなく続いてきたわけです。外国人に生活保護を支給することに日本国民の抵抗感が少ない一因となっているともいえましょう。

直近六年間で一・五倍の外国人支給

 では生活保護の現状を具体的に見てみましょう。生活保護費の国庫負担金を事業費ベースで見ると平成24年の保護費総額は3兆6284億5240万円に達し、この6年間でなんと1兆円近い伸びを見せている。民主党政権が3年3か月続いたので、ちょうどこの間に急速に伸びていることが読み取れます。

 そして外国人で生活保護を受けている世帯は23年は4万3479世帯。これも17年の2万8499世帯からみると6年間で約一・五倍にも増えていました。

 国籍別に見ると一番多いのは韓国・北朝鮮籍の方で2万8796世帯。ついでフィリピンが4902世帯、中国が4443世帯、ブラジルは1532世帯(いずれも平成23年)。急速に伸びているのは中国で6年前は2609世帯に過ぎなかった。

 気がかりなのは、世帯全体に占める生活保護世帯の比率で日本国民の平均は2・6%に過ぎないのに、韓国・北朝鮮は14・2%も占めていたことでした。フィリピンも11%ですが、韓国・北朝鮮籍の世帯における生活保護受給世帯は桁違いに突出しているのです(平成22年)。

 外国人にいくら支給されているかというデータが明らかになるのは実はこれが初めてのことです。はじめ厚生労働省は外国人を対象にした保護率のデータは存在しないなどとしていたのです。これ自体、許し難いことです。ただ、なぜ外国人の保護率が高いのか、なかでも韓国・北朝鮮籍の方がなぜ突出して高いのかという理由や原因はまだよくわかっていませんし、さらによく調べて見る必要があります。

外国人に受給資格なしという最高裁

 冒頭の最高裁で争われた訴訟は、この通知を根拠に起こされたものでした。原告の中国籍の女性(82)が生活保護の申請を出したところ大分市から「相当の資産がある」との理由で却下されたことが発端となり原告は市の処分は違法だとして、市に取り消しを求め提訴したのです。その後、市の裁量で生活保護の受給は認められました。しかし裁判では外国人にも法的な受給権があることを認めるよう争ってきたのです。

 2010年、一審・大分地裁は女性の訴えを退けました。しかし二審・福岡高裁は外国人を同法の保護対象だと認定してしまったのです。そして最高裁第二小法廷は、二審の判決を覆し「生活保護法が適用される『国民』に外国人は含まれない」と指摘。この通知にも「文言上も生活に困窮する外国人について生活保護法が適用されず、その法律の保護の対象とならないことを前提に…定めたものであることは明らか」だとして外国人に受給権はないと判断した――というわけです。

 外国人に受給資格がない。とにかくそのことは最高裁でハッキリしたわけです。行政の判断で法律では認められていない外国人を日本国民と同じように取り扱う――という判断自体、この際、よく考えて見る必要があると思います。行政の裁量による判断というのは本来あってよい話です。ですが、生活保護の場合、法律では認められない外国人への支給を認めてしまっている。「法律を準用する」といいながら、行政の判断だけで巨額の国民の税金を使ってしまっているわけです。こうした方針について国会の審議もなければチェックもない。これはとても問題があると私は考えました。そこで衆議院の予算委員会でとりあげることにしました。

続きは正論12月号でお読みください

■ 桜内文城氏 昭和40年、愛媛県出身。東京大学法学部卒業後、大蔵省(現財務省)に入省。新潟大学経済学部大学院准教授(会計学)などを経て平成22年参議院選で初当選(みんなの党)。現在、次世代の党政調会長。公認会計士と税理士資格取得。