雑誌正論掲載論文
「外国人労働者で経済成長」の嘘と危険
2014年07月15日 03:00
産経新聞特別記者 田村秀男 月刊正論8月号
「外国人労働者」は「移民」と同義である
政府は新成長戦略で外国人の「働き手」受け入れ拡大を打ち出した。帰国を前提とし、永住につながる「移民」導入策ではないという建前だが、そもそも欧州の例をみても、外国人労働者は「移民」の範疇に入るし、滞在期間が切れた外国人を一斉に強制帰国させることは政治的に困難だ。したがって、政府はそろりと、移民受け入れに舵を切ったと見るのが自然だ。移民受け入れ策を論じてきた政府の経済財政諮問会議の大義名分は少子高齢化で停滞する日本経済を活性化させるというものだが、ちょっと待てよ。本当に移民で経済は成長するのか。
法人税率引き下げで外国企業の対日直接投資を促して高度な技能・技術を持った外国人労働者を受け入れる。高度な外国人の対日進出を盛んにするためには、外国人幹部の家族に住み込む外国人の家事労働者(お手伝いさん)受け入れが欠かせない、という名目で新成長戦略にそれを付け加えた。
日本はこれまでお手伝いさんを含む外国人単純労働者の受け入れを厳しく制限してきた。それを事実上緩めるのに合わせて、もっと正当な外国人労働者の受け入れを拡大するのは不都合ではない。正当とは発展途上国の人材が働きながら技能を学ぶという建前の「外国人技能研修制度」に基づく「外国人技能実習生」のことである。「技能」と名のつく労働者の受け入れ拡大は「内なるグローバル化」推進の一環である。
新成長戦略ではこの技能研修生の滞在期間3年を5年に延長すると同時に、介護福祉を外国人技能実習制度に追加する。さらに2020年東京五輪を控えた建設工事需要に対応する名目で建設業と、同じく人手不足の造船業での外国人労働者受け入れ期間を5~6年とする新制度をつくる。
これらは、急場凌ぎでささやかな外国人労働の受け入れ拡大策のように見える。昨年秋、消費税増税と引き換えに法人税率引き下げを断行すると決意表明した安倍首相はもとより「移民受け入れ」に否定的だが、外国人労働者受け入れも「業種、滞在期間限定だから移民ではない」との周りからの説明を却下するわけにはいかなかったようだ。「外国人の働き手」を法人税引き下げと抱き合わせにする首相周辺の移民推進グループのもくろみが当たったのだ。
この首相周辺とは、「経済財政諮問会議」「産業競争力会議」「規制改革会議」を裏で仕切る財務官僚と、これらの会議の民間メンバーである御用学者たちとビジネス利害が直結する業界代表である。ことに、人材派遣最大手のパソナグループ会長でもある竹中平蔵氏がパソナ抜きの「慶応大学教授」の肩書で産業競争力会議を舞台に切れ者らしく理路整然と外国人労働者受け入れ拡大論をぶっても、外部から「利益動機ではないか」とうさんくさく見られてもしかたあるまい。人材派遣業は「外国人労働者」派遣ビジネスに手を広げるチャンスと見なされるからだ。
もともと、政策の多くは概して、官僚=「省益」、企業=「自社利益」、政治家=「支持母体の利益」と、とかく不純動機で動き、決まるのが現実だ。財務官僚の場合は、日本人、外国人を問わず人口さえ増えれば増収となる消費税を意識している。
「動機不純」でも、それが日本の真の国益、経済の活性化につながるのであれば、許容されてよい。利害業界代表の発言や政商まがいの政治的影響力の行使がそれらに反する結果を招くかどうかを厳しくチェックするシステム、意思と能力があるかどうかが、日本の将来を左右する。主流のメデイアやアカデミズムが官僚の御用機関になってしまえば、それも不可能だ。筆者も本誌もそれをいさぎよしとしない。
後で詳述するが、人材派遣業のビジネス・モデル強化に与するのは日本の自滅につながると懸念する、とまず言っておこう。外国人労働・移民受け入れ志向は人材派遣業がリードする日本経済の非正規雇用化の延長上にあり、人口減の中での経済成長に不可欠な労働生産性向上に背を向けるのだ。
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