雑誌正論掲載論文

[特集]解散! 石原新党は日本を変えるか

2012年12月05日 11:03

 わが人生最後の闘いが始まった 日本を真の独立国家にするために、小異を捨て第三極の大連合を実現する(作家・前東京都知事 石原 慎太郎)月刊正論1月号

はじめに

 本誌アンケートでも首相就任を望む声の多かった石原慎太郎氏が、ついに国政への復帰を決意した。戦後体制を打破し、真の独立を回復することを大目標に、第三極の大連合を模索していた石原氏は11月17日、みずから共同代表を務める太陽の党と橋下徹大阪市長率いる日本維新の会の合併に漕ぎ着けた。太陽の党を解党し、石原氏は日本維新の会の代表として、総選挙に臨み、沈みかかった日本の立て直しに挑む。このインタビューは、大連合を模索しているさなかの11月9日に行われた。(本誌編集部)

戦後体制の打破を目指す

 石原 最近、九十歳になる戦争未亡人の歌を知ったんだよ。「この国のかく醜くもなりぬれば捧げし命ただただ惜しまるる」。20代で結婚して、ご主人はすぐ戦死したという。その人はその後、子供も育て夫の両親に仕えてここまで来た。この気持ちはよくわかるなあ。私の家内の父も、家内がお腹にいるとき戦死している。家内の母親は早く死んでしまったが、もしいまも生きていたら、同じ感慨を持つと思う。

 ―それで我欲にまみれた日本をなんとかしようと、80歳の石原さんが立ち上がられた。

 石原 「暴走老人」と田中眞紀子は言ったけれど、実にいい言葉だよ(笑)。

 ―そうですか。

 石原 彼女は「暴言ババア」だけれど、あれは暴言じゃない。むしろ名言だと思うんだ。

 ―新党を結成してまず何を国民に訴えていこうと考えていらっしゃるのでしょうか。私たちは、現行憲法の問題とその憲法に影響を受けた教育の在り方ではないかと考えるのですが。

 石原 それは違う。もちろん、現行憲法も、その影響を受けた教育も問題だが、いま国民がもっとも強く望んでいるのは、「いまの政治を何とかしてくれ」ということじゃないか。橋下君がうまいことを言ったね。「政治をやるんだったら、『ふわっとした民意』というものを忖度しなければダメ」だって。確かにそうなんだ。しかし、「ふわっとした民意」というものにおもねりすぎるとポピュリズムになる。「ふわっとした民意」の中にもプライオリティーがある。われわれがいま忖度しなきゃいけない「ふわっとした民意」とは、政治に対するうんざり感と、それをなんとかしてもらいたいという切なる思いだと思う。下手をしたらこの国は沈むと、誰もがなんとなく思っている。

 ―確かにそうですね。

 石原 それが何に由来しているかと言えば、憲法そのものに対する不安や、憲法が間接的にもたらす弊害もあるけれど、中央官僚が本当に国のために働いているのかという疑問、そしてわけのわからない外交が大きい。

 中央官僚は何かというと、「継続性と一貫性」と言う。しかし、そんな姿勢でこれほど変化の激しい時代に対応できるはずがない。辞任会見でも話したが、私は知事に就任するとすぐに、約1億5千万円をかけて独自に透明性の高い「発生主義複式簿記」を採用しました。この新しい会計制度で、就任時200億円程度しかなかった都の預金は、4年後には1兆円を超えました。ところが、日本の官庁の会計制度は、バランスシートも財務諸表もない「単式簿記」なんです。要するに透明性の極めて低いやり方でよしとしている。これで健全な財政運営はできるはずがない。

 待機児童解消のため、都が新しい保育所を作ろうとしたときには、厚生労働省が子供1人あたり1坪のスペースが必要だと横槍を入れてきた。東京でそんな土地を用意したら、どれほどの金額になるかわかっているにもかかわらず、その規格を改めようともしない。そこで旧国鉄の使用していないビルを利用して認証保育所を作りましたが、これも国から激しい反対があり、未だに正式に認可されず、ろくな援助もない。

 こんなことはほんの一例で、中央官僚は、地方の実態もわからないまま、地方が改革を始めようとすると、前例を盾に邪魔をする。都知事時代は中央官僚との戦いに随分精力を奪われたというのが実感です。

 ―なるほど。新党を結成し第三極の大連合をつくる眼目の一つは、硬直した中央官僚システムの破壊にある。

 石原 まずはそうです。そしてその奥にある戦後体制というものを打破し、真の「独立」を回復することです。

戦う覚悟を持ち、鯉口を切れ

 ―民主党の失政もあり、外交問題も深刻ですね。

 石原 日本は力がありながら周りの国、シナ、韓国、北朝鮮、ロシアに侮られ、アメリカも頼りになるかどうかわからなくなり始めた。それを象徴するのが尖閣の問題です。アメリカは尖閣に対してどれぐらいの認識を持っているか。ほとんど持っていませんね。日米関係は安保を踏まえているわけですが、アメリカが最優先するのは自国のインタレストである、というのはわかりきったことです。

 そこで、尖閣購入を表明した私は、東京都として「アジアの海域が不安定な状況になれば、アメリカにとっても経済的な面などに影響を及ぼす。この問題で中国と対峙するアジア諸国を支持しなければ、アメリカは太平洋の全てを失いかねない」という意見広告を「ウォールストリート・ジャーナル」に出した。アメリカには日本で名前は知られていないけれど、日本通で頼りになる人物がいっぱいいる。そういった人々を念頭においてね。その彼らにしても「日本が自分の領土や財産を、血を流しても守るという意思を表示しない限り、私たちはついていけません」と言っているわけだ。所詮アメリカは、日本の後ろ側にいる友人なんです。当たり前のことなんだよ。

 ―そう思います。

 石原 私は、日本を侮る国に対しては、鯉口を切ったらいいと考えています。刀を抜く必要ないけれども、パチンと鯉口を切る。それだけでいいんです。

 これに関して非常に大事なエピソードがある。安倍晋三が官房長官のとき、東シナ海のガス田で、シナは自分たちの主張する鉱区の掘削準備に入ろうとした。外務省の役人がそれを報告したら、安倍は怒って「中止させろ」と命じた。「そんなことをしたら相手は軍艦を出してきますよ」と役人が反論すると、「こっちも出せばいい」と言った。役人がおどおどとそれを取り次いだら、シナは日本の要求をのんだ。つまり、シナだって現状認識はある。

 現時点では、シナと通常兵器で戦えば勝てる。そういう事実をきちんと国民に知らせたらいい。しかし、そのことを絶対に言わせない。「戦えば」なんて聞きたくもない、という風潮がいまだに日本中を覆っているからね。この風潮こそまさに堕落、未亡人が歌った「醜くなりぬる」ですよ。

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■ 石原慎太郎(いしはら・しんたろう)氏 昭和7(1932)年神戸市生まれ。一橋大学卒。在学中に執筆した『太陽の季節』で第34回芥川賞受賞。以後、文学、評論等多岐にわたる執筆を続ける。43年参院全国区に当選、衆院議員に転じ、福田赳夫内閣で環境相、竹下昇内閣で運輸相を務める。平成7年国政を退くが、11年東京都知事に当選。10月31日に辞任、国政復帰を表明した。