雑誌正論掲載論文

世はこともなし? 第89回 虫酸が走る 石井英夫

2012年10月25日 09:19

「世はこともなし?」というタイトルをつけたのは本誌・永井優子記者だが、最後の「?」は自分でつけた。

 私は臆病だから万一をおもんぱかったのだ。そうでなかったら東日本大震災の発生時で筆を折らなければならなかった。こんどの竹島・尖閣問題でも、用心深く「?」をつけていてよかった。ほら、永井ちゃん!

 とにかくこの夏は虫酸が走りっぱなしだった。胸のむかむかが収まらない。いまも目細のっぺりの韓国大統領の顔と言動を思い浮かべると、酸っぱいものがこみ上げてくる。

 虫酸が走るといえば、菅・鳩山がテレビに映るたびに覚えた不快感だが、竹島・尖閣についての朝日新聞の姿勢にも胸のむかつきを抑えることができない。

 普段は精神衛生上、なるたけ朝日は読まないようにしているのだが、世論への悪影響を考えると、そうもいかない時がある。こんども危うんで開いたのだが、案の定だった。

 まず韓国大統領の竹島上陸直後の若宮啓文主筆。『座標軸』(8・12)で「大国らしからぬ振る舞い」と殊勝げにタイトルをだしておきながら、「ここばかりは自力で領土奪還を成し遂げたとの思いがあるのではないか。だからこの島が独立のシンボルなのだ」と、韓国に思いをこめて書いている。

 冗談ではない。断じてそうではない。ここは彼らが一方的に李承晩ラインを引き、不法占拠した島である。侵略支配した日本の島なのである。その国際的な理不尽さと無法さを強くたしなめなくて何が日本の新聞の主筆だろう。

 この人は平成十七年のコラム『風考計』で「いっそのこと(竹)島を譲ってしまったらと夢想する」と書いてのけた。その売国的妄想がまだ糸を引いているとみえる。

 いちいち掲載日をあげないが、朝日の社説を並べてみると、「互いにいがみ合う時か」「政治が対立をあおるな」「非難の応酬に益はない」等々…。

 例によって上から目線のしたり顔で、へっぴり腰の事なかれ主義を説くのだ。一体、竹島問題で日本と韓国はどっちもどっちなのか。喧嘩両成敗の関係なのか。まるでヤクザの抗争か、犬のケンカにバケツで水をかけるような論調なのである。

 そして日韓通貨スワップの破棄などを指して、「あたかも制裁のように関係のない問題を持ち出すのはいかがなものか」(8・21社説)と、どこまでも韓国のご機嫌をうかがっている。

 上も上なら、下も下である。

 8・23に「竹島の大統領碑、土台部分撤去へ」という見出しで載ったソウルK特派員の記事の姿勢も右へならえだった。それは「日韓が領有権を争っている竹島(韓国名・独島)に建てられた石碑の土台が…」というマクラの表記で始まっている。おかしい。なぜ「韓国が不法占拠している竹島に…」と書き出さないのか。なぜおためごかしの似非客観主義を装うのか。この新聞は一体どこの国の新聞か、目を疑わざるをえないのである。続きは月刊正論11月号でお読みください

コラムニスト・元産經新聞論説委員 石井英夫

 昭和8年(1933)神奈川県生まれ。30年早稲田大学政経学部卒、産経新聞社入社。44年から「産経抄」を担当、平成16年12月まで書き続ける。日本記者クラブ賞、菊池寛賞受賞。主著に『コラムばか一代』『日本人の忘れもの』(産経新聞社)、『産経抄それから三年』(文藝春秋)など。