雑誌正論掲載論文
LGBT法案で保守派潰す岸田首相
2023年06月12日 12:08
産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比/ 月刊「正論」7月号
岸田文雄首相は五月十六日、東京都内で開かれた自民党安倍派のパーティーでの挨拶で、まず一年前の同パーティー時には健在だった安倍晋三元首相を偲んだ。
「私の下手な挨拶、全くうけないジョークにも大きな口を開けて笑っていただいた安倍元総理の優しい笑顔、今でも私は忘れることができません。安倍元総理がなくなられてから、まもなく一年が経とうとしています。私たちが心から敬愛申し上げた安倍元総理のご冥福を、改めてお祈り申し上げたい」
その上で、岸田首相は次のように強調していた。
「新型コロナとの戦い、あるいは国際秩序が大きく揺らがされている。何十年に一度というべき困難に直面しているとき、ハトとかタカとか、こうしたレッテル貼りはあまり意味がない時代になってきたと感じています。今、国民が求めているのは、ハトでもなくタカでもなく、国益のために力を合わせ、国民のために結果を出してもらいたいということである」
確かに、ハト派だとかタカ派だとか決めつけて枠をはめることに意味はない。そうではあるが、私はこの言葉を聞いて、安倍氏が令和三年十一月、少数民族弾圧などで国際的な非難を浴びていた中国に対して態度が煮え切らない岸田首相についてこう語っていたのを思い出した。
「まあ、ちょっと保守層をあまり甘くみないことだね。(十月三十一日投開票の)衆院選に、どうして勝てたかということだ」
九月の自民党総裁選に勝って首相に就いた岸田首相にとって、衆院選は初めて受ける国政選挙の洗礼だった。当初、苦戦が予想された自民党が大勝を果たしたのは、総裁選で保守の旗を掲げた高市早苗候補が、自民党離れを起こしつつあった保守の無党派層を引き戻した高市効果だとみられた。
安倍氏は、岸田氏がその点をきちんと理解しているのかと懸念を示したのだった。その後も安倍氏は、保守の岩盤支持層を持っていない岸田首相が、保守票を手放してしまうのではないかと、事あるごとに心配していた。
ハトとかタカとの区別は無意味だとしても、自民党のこれまでの国政選挙の勝利は、党員や固定支持層の票だけで成り立ったものではない。特定政党を支持しているわけではない無党派の保守票を集め固めてやっと勝てるのである。
自滅して一過性のブームに終わった小池百合子東京都知事による希望の党の例を見ても、本当は自民党以外の保守政党に投票したいという無党派層は多い。実際、昨年夏の参院選では、彼らの票は日本維新の会と参政党に大きく流れている。
タカ派と重なる保守層をないがしろにしたら、保守政党を名乗る自民党の基盤が大きく揺らぐことになる。
内政干渉まがいの圧力
そして岸田首相が安倍派のパーティーで挨拶した五月十六日は、自民党の最高意思決定機関である総務会が、LGBTなど性的少数者への理解増進を図るはずの法案を了承した日でもあった。
法案は、女性の権利と保護を棄損し、日本社会の変容を招くとともに一部活動家の新たな利権スキームとなると指摘されており、党内の保守系議員の多くが反対または慎重姿勢を取っていた。
LGBT当事者団体からも、法律化による弊害が大きいとの声が上がり、SNS上では反対意見があふれていた。
それが、「岸田首相の意向だ」(ベテラン議員)として強引に取りまとめられ、岸田首相が議長を務める五月十九日開幕の先進七カ国首脳会議(G7サミット)前に国会に提出されたのである。
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