雑誌正論掲載論文
習近平国家主席 四期目狙いの人事
2023年04月01日 00:00
三月に開かれた中国の全国人民代表大会(全人代)で、習近平氏は三期目の国家主席に決まりました。二千九百五十二人が投票して全員が賛成、反対・棄権はゼロという結果でした。
今回の習氏の人事は単なる続投ではなく、長年の党内のルールを破っての、憲法を改正してまでの強引な続投です。これまでは、六十八歳を過ぎた党幹部は再選されないという暗黙のルールがありました。前任者である胡錦濤氏も、その前任の江沢民氏も国家主席は二期で後進に道を譲りましたが、習氏はそんなことにはお構いなくルールを変えてしまったのです。
そして習氏は周辺を自分に近い人間で固め、対立する派閥の勢力は徹底的に排除しました。習氏と深い縁がなければ、どんなに優秀で実績のある人物でも評価されなかったのです。
最近の中国はどうもパッとしません。昨年の半ばまではゼロコロナ政策のため中国各地でひんぱんに都市封鎖が行われるなど、経済活動が麻痺していました。そして昨年末には急にゼロコロナ政策を全面解除したことで感染が一気に拡大し、葬儀場で火葬が一カ月待ちといった大変な状況になったのです。昨年の中国のGDP(国内総生産)成長率は目標も五・五%と控え目でしたが実績はそれをも下回り三%と低迷しました。
経済状況も悲惨な上に、外交分野でも〝戦狼外交〟で世界中を敵に回してしまっています。これだけメチャクチャな政治が展開されてきたにもかかわらず、全人代で全議員が習氏続投に賛成票を投じたというのは、傍から見ていると恐怖でしかありません。本当に習氏を支持しているわけではなく、反対・棄権したら自分がどうなるかわからないという恐怖感から、賛成せざるを得ないのが実情といえるでしょう。
振り返ってみると二〇〇三年の全人代で、江沢民氏が国家主席を胡錦濤氏に譲る一方で中央軍事委員会主席をさらに二年間、続投したことがありました。このときは続投への反対が九十八票、棄権が百二十二票と、今よりは健全な反応がみられました。現在は恐怖政治で、誰も習氏への反対を表明できません。先月述べたように、中国は今や大きな北朝鮮化しています。鄧小平以来の「改革開放」の成果が失われてしまった投票結果だともいえます。
今回の人事で首相や全人代委員長、政治協商会議(政協)主席や副首相といった重要ポストは皆、習近平氏の若いころからの取り巻きによって固められました。習氏を含めて七人いる政治局常務委員の中で、一番若いのは筆頭副首相になった丁薛祥氏で六十歳。次の共産党大会が開かれるときには六十五歳で、年齢的には習氏の後釜を狙える位置にいます。ただ彼は筆頭副首相になったので、五年後には首相になる可能性が高い。
ちなみに丁氏は習氏の秘書を長年務めた人物で、今回首相になった李強氏も習氏が浙江省トップの党委書記だったときに秘書長を務めていました。首相も、次期首相含みの筆頭副首相も、ともに習氏の秘書出身なのです。これは何を意味するかといえば、完全に習氏が四期目をやるための布陣です。
中国共産党では、地方の大きな省で党委書記(省のトップ)を経験した人間が中央でもトップの座についてきた伝統があります。丁氏は長年、秘書を務めていて地方でトップを務めた経験はありません。だから五年後も党総書記・国家主席になれる可能性は、まずありません。これで習国家主席の地位は向こう十年、安泰だといえるでしょう。
全人代での人事でもう一つ注目すべきなのは、韓正氏が国家副主席になったことです。この韓氏は江沢民氏の子分で、今回の人事で引退かと思われていましたが、国家副主席に抜擢された。これは江氏が昨年十一月に亡くなったものの、江沢民派にまだ力が残っていることを示したものといえます。
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