雑誌正論掲載論文

醜聞に興じる野党と付き合う与党

2023年04月01日 00:00

産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比 /月刊「正論」5月号

 「三月から、総務省文書騒動で役所の公務は殆どできなくなりました。国会答弁最優先ですから、海外でセキュリティクリアランスが無いばかりに不利益を受けている企業の非公開ヒアリングには終盤しか参加できず、多くの企業が参加される経済安全保障の講演会もドタキャン。『国会軽視』はしていません」

 高市早苗経済安全保障担当相は三月十八日、自身のツイッターでこう嘆いた。国益を損ねるひどい話である。

 国会では、立憲民主党と共産党を中心に放送法の政治的公平に関する平成二十七年の総務省の行政文書をめぐって連日、高市氏への執拗な攻撃が続く。高市氏が総務相だった当時、放送法の解釈の変更などしていないと説明しても立民議員らは聞く耳を持たず、感情的に責め立てることをやめない。

 行政文書は立民の小西洋之参院議員が入手したもので、高市氏はそのうち自身の言動が記された四枚の行政文書は不正確だと明確に否定している。そして実際、総務省が公表した「『政治的公平』に関する行政文書の正確性に係る精査について」と題する三月十七日付の追加報告も、高市氏の主張を追認している。

 高市氏は特に、二十七年二月十三日に総務官僚が高市氏に対して行ったという放送法の「レク(説明)」に関しては、そうしたレク自体がなかったと主張していた。この点に関する総務省の追加報告にはこうある。

 「なお、作成者および同席者のいずれも、この時期に、放送部局から高市氏に対して、放送法の解釈を変更するという説明を行ったと認識を示す者はいなかった」

 行政文書によると、このレクには高市氏を含め六人が出席していたとされたが、もともと大臣室側の出席者三人はいずれもレクの存在を否定していた。それを、追加報告では残りの三人も認めたということである。

 追加報告によると、この文書の作成者は聞き取り調査に次のように答えている。

 「約八年前でもあり記憶が定かではないが、日頃誠実な仕事を心がけているので、上司の関与を経てこのような文書が残っているのであれば、同時期に放送法に関する大臣レクは行われたのではないかと認識している」

 レク出席者は誰も記憶していないが、文書があるならあったのではないかという曖昧模糊とした言葉だが、総務省は国会でも繰り返しこれを読み上げている。なぜそんな回答になったか。筆者はある政府高官からこんな衝撃的なことを聞いた。

 「『文書が残っているなら』の前に『上司の関与を経て』とつけているだろう。あれは記録者が最初に作ったメモを、上司が原型をとどめないほど書き換えたことをにじませたものだ。そんなことが何度かあったらしい」

 上司が内容を書き換えてしまっているのなら、作成者が言葉を濁したのも頷ける。もし、総務官僚がメモや覚書の類いであろうと、行政文書を何らかの意図を持って改竄して記録に残したのだとすると、これは捏造と言っていい。

 問題は高市氏の進退を狙う立民の思惑を超え、総務省のスキャンダルに発展する。刑事事件になる可能性もある。三月十四日の衆院総務委員会では、こんな奇妙な質疑もあった。

 立民の大築紅葉氏「総務省が文書を捏造するはずがない。捏造した可能性はないと考えているか」

 松本剛明総務相「まだ確認中で、捏造であるかどうか私が今、申し上げることはできない」

 総務相が総務省の行政文書について、「捏造ではない」と答弁できずにいるのである。それだけでも十分に怪しい。

 また、二十七年三月九日の「高市大臣と(安倍晋三)総理の電話会談の結果」という行政文書に関しても、高市氏は安倍氏と電話で放送法について会話したことはないと述べていた。これに関しても追加報告はこう記している。

 「高市大臣から安倍総理又は今井(尚哉首相)秘書官への電話のいずれについても、その有無について確認されなかった」

 まさしく高市氏への立民の批判は冤罪であり、言いがかりに過ぎなかったのは明らかである。にもかかわらず、立民は論点をずらし、高市氏の言葉尻をとらえて非難を繰り返す。事の真偽などどうでもよく、ただ相手を攻撃し、排除できればいいといういじめの構図そのものだといえる。

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