雑誌正論掲載論文
女性団体と厚労省疑惑の〝コラボ〟
2023年03月01日 00:00
虐待などの被害を受けた若年女性らに対する東京都の支援事業を巡り、昨年来、「暇空茜」を名乗る男性の住民監査請求に端を発した、いわゆる「Colabo(以下、コラボ)問題」が、いまなおくすぶっている。今年一月四日、東京都監査委員が都に再調査を命じる「認容」判断を公表して以降、ネット上だけでなく新聞・雑誌でも報じられるようになった。
「中高生世代を中心とする十代女性を支える活動」を行っているコラボは平成二十三年に仁藤夢乃氏が発足させた学生団体が母体だ。二十五年には一般社団法人化し、仁藤氏は当初から代表理事を務める。新宿・歌舞伎町などで居場所のない少女たちへの宿泊場所提供や、就労や生活保護受給の支援などを展開し、その活動は新聞やテレビなどメディアでもたびたび取り上げられている。平成三十年度以降、東京都から「若年被害女性等支援(令和二年度まではモデル)事業」の委託を受けている。
令和三年度はこの業務委託費として、都はコラボに二千六百万円を支出していた。住民監査請求ではその会計報告をもとに、暇空氏が「食費や人件費、ホテル宿泊費などが不自然」などと指摘。監査委は税理士らへの不適切な報酬や領収書のない経費が存在するなどとして再調査を指示した。二月二十八日には結果の公表期限を迎える。「大幅な返金などは命じられないだろう」(都関係者)との観測もあり、結果次第だが、さらなる紛糾も予想される。
さらには本誌三月号で川崎市の浅野文直市議が指摘した、コラボによる公金の「二重取り疑惑」をはじめ、疑問点は広範囲にわたる。三月七日からの都議会予算特別委員会での質疑では、本誌三月号でコラボ問題を論じた自民党の川松真一朗都議が、同党議員らとともに関連する諸問題を追及する考えを示している。
コラボを巡る問題はなかなか全容がつかみにくい。本稿では、特定の個人・団体が、自分が個別に抱く問題意識に公共性をまとわせ、公金の支出を受けるスキームを築いたことの是非という点に的をしぼって検証してみたい。
〝利益相反〟を行政が助長
コラボに関する一連の指摘の中に、SNS上で「公金チューチュー」などと称されているものがある。これはコラボをはじめ事業者側の動きへの疑問だが、さらに「全体の奉仕者」たる行政機関がこうした動きを助長していると見える側面についても疑問の声が上がっている。
そもそも今回、監査を受けた都の事業は平成三十年度、国が児童虐待やDV対策などの支援を進める中で「若年被害女性等支援モデル事業(以下、モデル事業)」として始まったものだ。
それとともに厚生労働省は三十年七月に「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会(以下、検討会)」を発足させた。検討会は令和元年十月、「新たな制度構築に向け、具体的な制度設計等が進められ、できるだけ早く実現することを強く期待」するなどとした中間まとめを公表している。
これをもとに、令和四年、議員立法による「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(以下、困難女性支援法)」が成立。厚労省は「困難な問題を抱える女性への支援に係る基本方針等に関する有識者会議(以下、有識者会議)」を設置し、令和六年の完全施行に向けた準備を進めている。
今回、渦中の人となっているコラボの仁藤夢乃代表は、モデル事業の受託事業者としてだけでなく、検討会および有識者会議の構成員として、一連の流れの中で、大きな存在感を示している。
中でも、モデル事業開始直後の検討会で仁藤氏が訴えた内容は、コラボ問題が孕む本質的な根深さを象徴するものと言える。平成三十年十月二十四日、検討会の第四回会合で仁藤氏は以下のように発言していた。
「たった一千万円では、人二人雇って、シェルターをどこか借りたらなくなってしまうような金額で、とても二人でできるようなことではないのにと思います。全国に広げるためにも、ちゃんと予算を付けてほしいと思っているんです」
一千万円とは、コラボが都と結んだ同年度モデル事業の委託契約額(正確には一千五十一万九千円)だ。契約相手は都だが、同年度の事業経費は国が全額を負担している。
また、この発言に続けて、仁藤氏は「どこからお金を採(ママ)ってくるのかとか、制度や法律、法改正のことも必要だし…(中略)…今すぐにでも変えられることは何なのかをはっきりして検討していかないといけない」とも述べている。
検討会の開催要綱には「婦人保護事業のあり方を見直すべきとの問題提起がなされている」ことを踏まえ「今後の困難な問題を抱える女性への支援のあり方について検討する」とある。検討事項のトップには「対象とする『女性』の範囲・支援内容について」とあって、具体策にまで踏み込んだ議論を求めていた。
実務家としてヒアリングを受けたのではなく、検討内容を方向付けることについて、責任と能力を持つ構成員として、現状の予算額では不足だとして、増額を求め、財源探しを求めている。
繰り返すが、仁藤氏はこの時点から「支援モデル事業」を受託した事業者、コラボの代表だ。
公金を「受け取る側」でありながら、「配る側」としても振る舞っているわけで、こうした構図は一般的には、「利益誘導」と指摘できるだろう。
実際、日本維新の会の音喜多駿参院議員は今年一月二十三日に提出した質問主意書で、先の仁藤氏発言に利益誘導性を認め、政府の見解を求めていた。
→続きは月刊「正論」4月号でお読みください。