雑誌正論掲載論文

未完の安倍政治 大宰相への謝辞

2020年10月05日 03:00

産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比 「正論」11月号

真情あふれるエール交換

 「日本を取り戻す。この想いのもと、皆さんと共に政権を奪還し、みんなが夢に向かって進んでいくことができる日本、世界の真ん中で輝く日本を目指し、全力を尽くしてきました。(中略)本日、自民党総裁のバトンを菅義偉新総裁に渡します。この七年八カ月、官房長官として、国のために、そして人のために、黙々と汗を流してきた菅さんの姿を私はずっと見てきました。この人なら間違いない。この思いを皆さんと今日一つにできたのではないか。令和時代に最もふさわしい自民党の新総裁ではないでしょうか」

 九月十四日の自民党両院議員総会で菅新総裁が選出された直後、安倍晋三首相(当時)は自らの退任のあいさつで、菅官房長官(同)の門出を祝福した。

 「まずは自民党総裁として約八年、首相として七年八カ月にわたって、日本のリーダーとして国家国民のために大変なご尽力をいただいた安倍首相に、心から感謝申し上げます。ぜひ万雷の拍手を安倍総理にお願いをします」

 二人は目を赤くしていた。その光景を見ていて「こんな真情あふれるエール交換、トップの交代劇は、みんなバラバラの民主党系の政党では見られない場面だろう」と感じた。安倍首相は同日夜、こう語っていた。

 「菅さんに促されて(党所属議員の)スタンディングオベーションが起きたときは、私も感動した」

物足りない岸田氏

 安倍首相は、もともとは後継首相に岸田文雄政調会長(当時)を想定していた。昨年秋ごろから、周囲に「岸田さんは誠実な人柄だ」「約束を守る人だ」などと何度も強調しており、自然に岸田待望論が盛り上がるのを期待していたフシがうかがえる。

 その前年、平成三十年九月の自民党総裁選時には、岸田氏の優柔不断さに不満を漏らしていただけに、「ああ、岸田さんでいこうと決めたのだ」と分かった。このときの総裁選では、岸田氏は自分も出馬すべきかどうか逡巡し、最後には安倍首相に面会して「私が出た方が首相にとってもいいのでは」と尋ねるありさまだった。

 このとき、安倍首相に「これでは、次は菅さんしかいないのではないか」と言ったところ、こんな言葉が返ってきた。

 「私も最近、そう思うようになってきたよ」

 後継候補を岸田氏一人に絞るわけにはいかない――。今年七月二日に行われた『月刊Hanada』九月号のインタビューでは、安倍首相はポスト安倍をめぐり菅氏についてこう明言した。

 「有力な候補の一人であることは間違いない」

 それから持病の潰瘍性大腸炎が徐々に悪化し、すでに体調に異変が出ていた七月二十一日の時点では、再び菅氏を後継とする案に言及し、岸田氏の物足りなさを嘆いていた。

 「(安倍首相の足を引っ張り、後ろから石を投げ続けた)石破茂元幹事長が首相になることは、とにかく避けなければならない。だとすると、菅さんも候補の一人ではある」

 「岸田さんはあまりにもねえ。岸田さんと同じ宏池会の流れをくむ谷垣禎一元総裁のときも……」

 続きは「正論」11月号でお読みください。