雑誌正論掲載論文

ご都合主義が過ぎるメディア

2020年06月15日 15:00

産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比 「正論」7月号

森友問題で新局面

 自分たちにとって都合のいい存在であるときには利用するだけ利用しておいて、自分たちの意向に反する言動を始めたらとことん無視を決め込む??。学校法人「森友学園」の前理事長、籠池泰典氏と妻の諄子氏が五月の大型連休中に、動画投稿サイト「ユーチューブ」に連続投稿した動画に対する多数派メディアや政治家の無反応ぶりは、そんな左派勢力の体質、ご都合主義を端的に表している。

 籠池夫妻は、自分たちがこれまで反安倍晋三首相勢力に操られていたことに気付いたのである。これを評論家の八幡和郎氏は天動説が地動説にひっくり返るような「コペルニクス的転回」と呼んだが、実際、夫妻は動画で次のように発信している。

 「私は小学校を作りたかっただけだ。二枚舌、三枚舌を使う人間が私の近くにたくさんいた。私をアンダーコントロール(支配)しようとした人が確かにいたが、今はそれは崩れて離れている」

 「私たちをうまく動かしながら、反対方向ではアカンベェしている輩もいる」

 「我々ははっきりと目が覚めた」

 左派勢力は、籠池夫妻に安倍首相や夫人の昭恵氏を批判させたり、何か悪だくみにかかわっているとほのめかす発言をさせたりすることで、安倍政権の足を引っ張ってきた。そうした人々にとっては、籠池夫妻の覚醒は困りものである。

 動画を見る限り、籠池夫妻の言葉には納得できない部分もまだ残るが、いずれにしろマインドコントロールされた状態からは脱したようである。

 こうした現状について、八幡氏はインターネットの言論プラットフォーム「アゴラ」で次のように分析している。

 「交流があって味方してくれると思ったら、そうでもなかった安倍サイドに対して複雑な思いはあるわけだが、これまでの言動は野党陣営や朝日新聞などのマスコミの思惑に踊らされたものであったことを認めたわけだ。報道の前提が崩れたという意味では、改めて『コペルニクス的転回』と言っても間違いはない」

 そこで左派勢力は、内心慌てふためきながらも籠池夫妻が何を言おうと知らん顔をしているわけだが、夫妻の言葉は既にSNS(会員制交流サイト)などを通じて広まっている。今の時代、こうした事実を国民の目から隠すことはできないのだが、かつて情報を独占して勝手に取捨選択して流していた時代の癖が抜けないのだろう。

 産経新聞や僚紙、夕刊フジを除く各紙やテレビが、籠池夫妻の新たな言葉をまともに取り上げた形跡は見当たらない。夫妻同様、左派勢力にとっては不都合な真実を発信している長男の佳茂氏の存在を無視しているのもそうだが、何と薄汚いやり方だろうか。

「黒幕」差配で反安倍勢力の駒に

 森友学園問題を執拗に追及してきた左派メディアも主流派野党も、国民に事実を伝えて真相を明らかにすることなどはなから関心がなく、ただ自分たちの主義主張の宣伝と安倍政権打倒の材料が欲しいだけだと分かる。

 籠池夫妻は動画でこうはっきりと述べている。

 「安倍首相だけが悪いのではなく、政権打倒のために動いた人がたくさんいた」(泰典氏)

 「ふと思い出せば何かおかしい。『安倍犯罪だ』とか安倍がどうのとか(主張する人たちに)、私たちも乗っかっていた。でも安倍、安倍というのも最近バカらしくなってきた。もういい」(諄子氏)

 もっとも泰典氏は、これまでさんざん攻撃し、嘘つき呼ばわりしてきた安倍首相側に付いたわけではない。動画でも「安倍首相は今もなおカウンターだ」「安倍内閣に賛同しているかというと、そんなことは全くない」と語る。

 また、その政策や実績を批判したり、「利権にどっぷり浸かっている」と決めつけたりもしているが、同時に自分たちに接近してきた野党議員らにも冷たい目を向けている。

 籠池夫妻はツイッターでも、野党議員四人が自宅を訪れてきた際のことをこう振り返っている。

続きは、「正論」7月号でお読みください。