雑誌正論掲載論文

コロナ禍のNY生活報告記

2020年05月15日 03:00

産経新聞ニューヨーク支局長 上塚真由 「正論」6月号

 米国における新型コロナウイルス感染の中心地、ニューヨーク市の状況は、日本でも連日トップニュース級で伝えられていると聞く。世界最多の死者数、医療崩壊の危機や二千万人超の失職、貧困や人種問題…。米国はまさに「ウイルスとの戦い」のただ中で、日本の友人たちからは「ニューヨーク、大丈夫なの?」とたくさんのメールや電話をもらう。本稿ではこうした深刻な問題を掘り下げるのではなく、あえて目先を変えて、コロナ禍のマンハッタンで一人暮らしを送る四十代記者の体験記と生活の様子を報告する。

意外に厳しくない外出制限

 「都市封鎖」の一例として挙げられるニューヨーク市の外出制限は、それほど厳しくない。

 三月二十二日夜から医療機関、食料品店など「必要不可欠」な業種を除いて、すべての従業員の在宅勤務が義務付けられた。

 市は「少人数でも不要な集まりを避けること」「外出の際は、他人との距離を、最低でも六フィート(約一・八メートル)保つこと」を求めているが、外出は禁止していない。散歩や運動のため公園に行くことは許されているし、スーパーに行けば、食材は何でもそろっている。トイレットペーパーや消毒液、マスクはいまだ入手困難だが、スーパーの品ぞろえは、買いだめする人が相次いだ三月中旬と比べると、むしろ豊富になった印象だ。

 オーガニック食品を展開する地元で人気の「トレーダージョーズ」や「ホールフーズ・マーケット」では、買い物客が六フィートずつ間隔を空けて並んでいるため、百メートル以上の行列になることも。比較的空いている雨の日を狙って買い物に出かけるようにしているが、人気のスーパーは入店までに三十分はかかる。そんな中、マンハッタンに十店舗ほどある日本食スーパーは比較的空いているので重宝している。

 スーパーのほか、コロナ禍で人気なのはワインショップだ。店員に聞くと「毎日、クリスマスシーズン並みに忙しい」とのこと。自宅で食事する人が増え、ワインの消費量も急増しているのだという。近所のワインショップではネット注文を中心に営業しており、注文してから店頭で商品を受け取るまでに一週間はかかった。

 天気の良い日には、市中心部の「セントラル・パーク」でジョギングやサイクリングをする人などが目立つ。よく見かけるのは、小さな子供を連れた家族の姿だ。マンハッタンの家賃はとても高く、平均で約三千ドル(約三十二万円)。庭付きの広い自宅に住む人なんて、超富裕層の一握りだ。在宅で勤務するお父さん、お母さんが、自宅にこもっている子供たちの世話をするのは難しいのだろう。公園の芝生では、子供たちのはしゃぐ声が響き渡っている。

 ニューヨーク州のクオモ知事は、人との距離がとれていない例が多いとして、四月一日にバスケットコートや公園の遊具施設を閉鎖した。他人との距離を保つ規則に従わない場合には、最大で罰金一千ドルが科されることになっているが、ニューヨーク市警に問い合わせたところ、四月十六日時点で逮捕・罰金は百件以下にとどまっているという。それほど厳しく取り締まっていないのが実態といえる。

 対照的に閑散としているのは市中心部のオフィス街や、五番街などショッピング街だ。三月二十二日から在宅勤務命令が出されたが、それまでに段階的な在宅勤務の導入を求めており、三月半ばになると、オフィス街からは人が消えた。一方、医療従事者や、流通業などで働く人たちのために、地下鉄は本数を減らして運行を続けている。

 四月上旬に取材のため一度だけ地下鉄に乗ったが、駅ホームには私ともう一人の乗客だけ。車両は黒人や、中南米(ヒスパニック)系の乗客の姿が目立ち、白人はほとんど見かけなかった。四月九日付の産経新聞でも米国の格差問題を取り上げたが、地下鉄はまさに「富の不平等の象徴」と化している。

続きは、本誌6月号をお読みください。