雑誌正論掲載論文

チャイナ監視台 「コロナ外交」にご用心

2020年05月05日 03:00

産経新聞台北支局長 矢板明夫 「正論」6月号

 中国はこれからどうなるのか。この問題を考えるにあたって、今、しっかりと見据えておく必要があるのは、中国によるいわゆる「コロナ外交」です。世界中が現在苦しんでいる新型コロナウイルスの発生源は紛れもなく中国の武漢でした。ウイルスは瞬く間に世界中を席巻しています。

 ヨーロッパもそうです。日本もアメリカも、そしてイスラム圏に至るまでその猛威に苦しめられています。マスクも人工呼吸器も、そして防護服も足りません。そうした必需品の多くは「世界の工場」と呼ばれる中国で製造され、中国に依存してきたからです。

 マスクを例に取りましょう。民生品のマスクは製造にそれほど難しい技術を要するものではありません。ですから、日本や欧米など先進国では生産拠点を早々と海外に移し、国内ではほとんど生産していませんでした。ところが、今回、「マスクが足りない」となって「早く確保できないのか」と焦りが生まれたり政府を突き上げる動きが出てきています。

 そこに中国の関係者が「困っていますね? 友情の印に協力しましょう。私たちとマスクの取引をしませんか」と近づいてきます。まるで「助けてあげましょう」と言わんばかりで、サンタクロースか救世主のような振る舞いです。

 しかし、これは実に腑に落ちない話です。第一、もとはといえば、国際分業、役割分担のもとで中国でマスクの生産が行われていたからです。飛行機はアメリカ、自動車は日本やドイツ、アメリカ、韓国といった具合に分業体制が確立されていたに過ぎません。中国はそのうちの「マスク担当」だったというだけの話です。

 ところが、その「マスク担当」が突然、豹変して「マスクが欲しいでしょう」「私たちがマスクを出してあげましょうか」と恩着せがましく振る舞い出したのです。世界が違和感を抱くのは無理もありません。先ほども言いましたが、もとはといえば、今回の新型コロナウイルス禍は中国から始まったものです。マスクが必要な状況を作り出した国はどこなのか、と考えれば、そうした振る舞いに「何だ、それ?」と思うのも当然でしょう。

 それだけではありません。オーストラリアの地元紙「シドニー・モーニング・ヘラルド」が一月から二月の時期に不動産業を営む中国系企業がオーストラリア国内各地でサージカルマスク、体温計、除菌シート、アルコールジェル、使い捨て手袋、痛み止めといった薬など大量の医療物資を中国政府に命じられて買い漁り、それを段ボール単位で中国に輸送していた、と告発したのです。いわゆる「爆買い」ですが、地元紙はこれがオーストラリア国民の怒りを買っている、とも報じています。

 中国の税関データでも、中国は新型コロナウイルス禍が始まった一月からの五週間に、医療物資を大量輸入し、世界中からかき集めていました。マスクは二十億枚。これは世界の生産量の二カ月半に匹敵する枚数で、このために世界各地の中国大使館、領事館の職員や中国人が駆り出された、といわれています。

 日本では自治体や政治家が盛んに中国に寄付していました。しかし、裏では、医療物資が大量に確保されていたのです。日本で品薄になった際、高値で売り捌いて二千万円近く儲けた中国人女性をTVで見ましたが、官民挙げて世界中のマスクが中国に集められたのです。

 局面が変わって世界がマスク不足に喘ぐ光景が広がると、中国は何ごともなかったかのように、窮地に陥った国に近づいては支援の手を差し伸べてくるわけです。ですが、どうみても、やっていることは「マッチポンプ」といわざるをえない。自分で点けた火を自分で消し、それを自画自賛しているようなものだからです。

続きは、本誌6月号をお読みください。