雑誌正論掲載論文
『反日種族主義』があぶり出したもの 左派メディアの歯ぎしり
2020年01月15日 03:00
産経新聞編集局編集委員・國學院大學客員教授 久保田るり子 「正論」2月号
日韓関係の対立の元凶を、韓国の「ウソで固めた政治」のせいだと断じた本『反日種族主義』(李栄薫編著)は、日韓合わせて五十万部を超える歴史的なベストセラーになった。韓国版は十二万部、日本語版は二〇一九年秋発売から一カ月で四十万部を記録した。歴史の検証で韓国の反日史観を喝破したこの本に、韓国歴史学会や慰安婦支援団体はいまだに反論できていない。一方、十一月下旬に来日会見を開いた李氏に、日本の左派メディアが「日本の植民地支配の責任はどうお考えか」などと食い下がった。韓国の慰安婦性奴隷説、徴用工強制連行説に同調してきた日本メディアと祖国の反日史観をただそうと立ち上がった韓国知識人が対峙するという初めての構図だった。会場には緊張が走った。
否定派メディアの攻勢
押しかけたメディアで会場は満席となり、後部席は立ち見状態だった。
李氏は用意した「日本の読者へのメッセージ」を約三十分間、日本語を噛みしめるような口調で朗読した(145ページ参照)。うなずく者、目を閉じて聞く者もいて場内はパソコンのキーボードを打つ音が響いた。
詰めかけたメディアが「反日種族主義」肯定派と否定派に分かれていた。質疑に立ったのはほとんどが否定派(あるいは懐疑派)で、質問はそれ自体が挑発的な言い回しで、李氏の面持ちが少し緊張しているように見えた。
信濃毎日新聞の記者が聞いた。
「韓国人の反日感情分析には非常に納得する部分があったが、この本には植民地支配の日本の責任についての記述があっさりというか、あまりないと思った。日本の植民地支配の責任はどれくらいあるのか。それに対する戦後清算のあり方、支配の清算の仕方はどうあるべきと考えておられるのか」
李氏は淡々とこう答えた。
「私は、長い研究生活を通じ、一九〇五年から一〇年までの日本と朝鮮(第二次日韓協約から併合に至る経緯)についてたくさん考えてきました。大韓帝国の滅亡と日韓併合は二十世紀の東アジアを歴史的に決定する大きな変化でした。日本もその後、帝国主義に入っていった。日本は大陸に進出し中国は共産化しました。私は、大韓帝国が滅亡したことは韓国人の歴史的な責任もあると考えています」。戦後清算については「いろいろな研究があるので、私があえて話す必要性は感じません。この本はあくまで、韓国人による自己責任と韓国人による自己批判の本なのです」と述べ、日本批判を引きだそうとする誘導質問を切り捨てて本題に戻した。
次に質問に立った朝日新聞の記者は、まさに朝日的なイデオロギーで詰め寄った。
まず、「反日主義という言葉を使うかどうかは別として」と異論を唱えた。その上で「この本にはいくつか問題がある。まず徴用工の問題です。法律的に一九四四年九月から徴用が施行された。それ以前は募集、官斡旋という段階があって、ここ(『反日種族主義』)では、拒否できたとか法的に罰せられることはなかったとかいう記述があるが、これは当時の実態を反映していない。単に法律にはそう書いてあるということであって、(徴用工強制連行説の)東大の外村先生(外村大・東大教授)の研究などたくさんあるわけだが、それに対しての反論ならば、もう少し根拠を示すべきだ。それが全然ない。それから(徴用工が)奴隷生活をしなかったというところですけれど、例えば自由で花札をすることができたとか、酒を飲んで外に出ることができたと書いてあるけれども、それはほんの一部であって、しかもその部分の何の根拠も示していない。これは問題じゃないかと思う」と畳みかけた。
『反日種族主義』の論文には「問題がある」とし、「根拠がない」などと決めつけた。これら論文には参考文献などの注釈で根拠が示されているが、それを無視した直截な質問だったが、李氏はこれに丁寧に答えた。
続きは「正論」2月号をお読みください。