雑誌正論掲載論文
中国に「身売り」されるジャパンディスプレイ 国家意識欠く官民ファンド
2020年01月05日 03:00
産経新聞特別記者 田村秀男 「正論」2月号
日本は官民が結集して半導体の技術開発に取り組んだ結果、八十年代後半には競争力で米国を脅かすハイテク王国だったが、今や見る影もない。韓国、台湾に後れを取り、中国資本による買収をあてにする始末である。主要メーカーの液晶部門を統合、国家資金を投入して設立されたジャパンディスプレイ(略称JDI)が代表例である。収益力のない企業は市場から淘汰すべきとのビジネススクール教科書流思考によるが、甘過ぎやしないか。ハイテク覇権を狙う中国にとって、市場原理主義に凝り固まった日本はまさに思うつぼにはまっている。
ジャパンディスプレイは、経済産業省主導の官民ファンドの産業革新機構(INCJ)が二千億円を投じ、日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合して二◯一二年四月に発足した。その前にはパナソニックの液晶部門が東芝に、セイコーエプソンと三洋電機の液晶部門がソニーにそれぞれ統合されていたので、日本の大半の液晶表示装置メーカーの液晶部門がJDIに集約されたことになる。文字通りの「日の丸液晶」会社である。
JDIは発足から約二年で東証一部に上場したものの、業績は六期連続の赤字で、二◯一九年四~九月期の連結決算は千八十六億円の赤字(前年同期は九十五億円の赤字)、同年九月末時点で千億円超の債務超過に陥った。
財務危機を乗り越えるために、台湾・中国の電子部品メーカーや投資会社が作る「Suwaコンソーシアム」と業務提携し、同コンソーシアムから最大八百億円を調達することを目指し、二◯一八年十二月ごろから交渉に入った。Suwaコンソーシアムは、中国最大の資産運用会社、嘉実基金管理、台湾のタッチパネルメーカーの宸鴻集団と台湾の蔡一族投資ファンドCGLによって構成されている。JDIはことし四月に、嘉実基金と蒸着方式有機ELディスプレイの量産計画に関する業務提携で基本合意し、宸鴻集団とは液晶ディスプレイに関する業務提携基本契約を結んだ。
週刊ダイヤモンド誌は二〇一九年二月七日付けの電子版で、「JDIに買収提案の中台連合が取締役過半数派遣で狙う『実効支配』」と報じた。記事の概要は以下の通りだ。
中台連合はJDIの技術を活用して中国・浙江省に有機ELパネル工場を建設する計画で、JDIの東入來信博会長兼最高経営責任者(CEO)と、福井功常務執行役員らJDI幹部、JDIの筆頭株主であるINCJの勝又幹英社長と東伸之執行役員が一八年十二月に最初の協議のため、浙江省を訪問した。有機ELパネル工場投資額は約五千億円、資金は中国政府の補助金を活用する。早ければ一九年中に建設を開始し、二一年の量産開始を見込む。
有機ELは液晶よりも高画質、高解像度の表示を可能にし、スマホ、テレビから市民監視用モニター用など用途は限りない。記事通りにことが進めば、習近平政権が執念を燃やす国家補助によるハイテク国産化計画「中国製造2025」に日本の有機EL技術が飲み込まれることになる。「中国製造2025」はトランプ米政権が厳しくチェックしており、同計画の主役企業の通信機器大手ファーウエイ(華為技術)などは米国製部品や技術の利用が困難になっている。JDIの救済を名目に、日本の最新技術を取り込む意図がありありとうかがわれる。
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