雑誌正論掲載論文

「セクシー発言」の小泉環境相は原発の必要性を語れ

2019年11月15日 03:00

産経新聞論説委員 長辻象平 「正論」12月号

 二〇二〇年一月から、地球温暖化防止のための新たな国際枠組みとなる「パリ協定」が実施段階に入る。

 九月二十三日には、その先触れとしての役割を果たす「気候行動サミット」が米ニューヨークの国連本部で盛大に開かれた。

 多数の政府首脳をはじめ民間企業のトップ、地方自治体の長、市民社会団体やその他の国際機関が参集し、スウェーデンからやって来た十六歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんによる叱責演説で話題になったあの会合だ。

 安倍晋三首相は日程の都合がつかず、日本からは環境相に就任直後の小泉進次郎氏が出席し、国際デビューぶりが注目されることになったことでも記憶に新しい。

 アントニオ・グテレス国連事務総長が各国・地域の首脳に対し、それぞれが実行するパリ協定の「自主目標」を一段と強化するための具体的かつ現実的計画を携えて参加するよう呼びかけての気候行動サミット開催だった。

来年から始まるパリ協定

 まずはパリ協定と自主目標について、おさらいしておこう。

 パリ協定は「京都議定書」に代わる地球温暖化防止の国際的枠組みだ。二〇一五年に採択されて翌一六年に発効、来年から運用が始まる。

 京都議定書では、日本や欧州諸国などの先進国のみが二酸化炭素に代表される温室効果ガスの削減義務を負う取り決めであったのに対し、パリ協定では途上国も排出削減に参加する。これがパリ協定の第一の特徴だ。

 各国・地域は、それぞれの状況に応じた自主目標を設定し、排出削減に取り組む。割り当て方式ではなく、自主目標を導入したのが第二の特徴。

 パリ協定は温暖化の悪影響を避けるため、今世紀末の世界の気温上昇を産業革命前から二度未満に抑えることを目指している。できれば一・五度未満に抑えたいとの考えだ。

 しかし、これまでに各国が国連に報告した排出削減の自主目標値を合わせても上昇幅の「二度目標」達成は難しそうなのだ。

 それぞれの自主目標がどの程度のものかというと、日本は二〇三〇年度までに一三年度比で二六パーセントの削減を掲げている。

 フランスとドイツは三〇年までに一九九〇年比で、それぞれ四〇パーセントと五五パーセント削減という目標だ。世界二位の排出国である米国はパリ協定から事実上離脱している。

 ちなみに世界一位の排出国・中国の自主目標は「遅くても三〇年までに排出をピークアウトさせる」という内容。言い換えると三〇年までは排出を増やし続けるという、この国らしい宣言なのだ。

 他の国々も自主目標をさらに引き上げないと効果が望めない。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の検討によると、このままでは三〇年に気温上昇が一・五度に達する可能性が見えつつあるという。

 そういう切迫した状況を踏まえてグテレス国連事務総長は、今回の気候行動サミットに各国首脳を招集したのだった。

 各国がすでに表明している自主目標に、削減の上乗せが求められていたのである。

温暖化問題はセクシーに

「あなたたちには失望した。しかし、若者たちはあなたたちの裏切り行為に気付き始めている。全ての未来世代の目はあなたたちに注がれている。私たちを失望させる選択をすれば、決して許さない。あなたたちを逃がさない」

 国連本部の気候行動サミット会場。涙を浮かべつつ、並み居る首脳陣に抗議の声を浴びせたトゥンベリさんの開幕スピーチの一節である。

 要は、各国の現行削減策では気温の上昇幅を一・五度に抑え込める可能性は不確かで、彼女ら若い世代の将来を危うくしている、と怒りの感情をぶつけたのだ。

 強烈なメッセージを全世界に発信したことは間違いない。若い世代の環境意識を高めた功績で、今年のノーベル平和賞の下馬評に上がったほどである。

 それに対して、将来の首相候補の声も聞かれる小泉氏のサミットでの存在感は、本会議での発言機会がなかったこともあるのだが、温暖化防止の具体策を論じる場面で、あまりにも軽かった。

続きは「正論」12月号をお読みください。

■ ながつじ・しょうへい 昭和二十三年生まれ。京都大学卒業。産経新聞で科学部長などを歴任。著書に『釣魚をめぐる博物誌』『御納屋侍・みずすまし』など。