雑誌正論掲載論文
新聞が信じられない 「政治報道冤罪」毎日新聞と戦う
2019年07月15日 03:00
政策シンクタンク代表 原英史 「正論」8月号
火のないところに煙はたつ。
政治や政策に関連して利益誘導などの不祥事の報道がときどきある。このうち加計問題に関しては、私は国家戦略特区ワーキンググループ(特区WG)委員として直接の当事者だった。「友人に利益誘導した」という安倍晋三総理と、それを「忖度した」という内閣府次長がターゲットにされていたが、ともかく全く事実と違う報道が続くことに驚いた。そこで、ネットメディアなどで事実を伝え、国会にも参考人として出席して説明した。
それでもまだ、私は、加計問題はかなり特殊ケースなのかと思っていた。自分が当事者ではない政治不祥事報道を目にすると、多くの場合は「百%真実ではないにせよ、新聞などでここまで書かれている以上、何かいかがわしいことがあったのだろう」ぐらいに受け止めていたものだ。
しかし、今回の毎日新聞報道を受けて考えるに、どうやら全く違うと考えたほうがよい。何らかの意図があり、メディアと政治の仕組みがわかっていれば、でっちあげで「悪人」を仕立て上げ、大きなダメージを与えて社会的に抹殺することも、簡単にできてしまう。自分自身が「悪人」に仕立て上げられて、そんな「政治報道冤罪」の仕組みがわかってきた。
今回のケースは、毎日新聞だけで報道され、ほかの新聞・テレビではほぼ報じられていないので、知らない人もいるかもしれない。六月十一日の毎日新聞一面トップに「特区提案者から指導料 WG委員支援会社 200万円、会食も」の見出しと、いかにも悪いことをしていそうな感じの私の顔写真が掲載された。その後、十五日まで五日間連続一面で、「特区WG原英史委員」の関わった不祥事事案が報じられ、まだ継続中だ。
これに対し、私は連日、反論文をフエイスブックとツイッターに掲載し、「フォーサイト」や「アゴラ」などにも転載されている。ポイントをかいつまんで説明するとこんなことだ。
<記事の指摘(一) 特区WGの原委員は、その立場を利用して二百万円の指導料や会食接待を受け、「収賄罪」相当のことをした>
十一日記事の見出しをみると、私が「二百万円の指導料」を受け取ったという意味にしかみえない。しかも、識者のコメントとして、私は「公務員ならば収賄罪にあたる」ことをしたとまで書かれている。完全な虚偽だ。毎日新聞記者も何の根拠もないはずだ。それで、一面でこんな見出しと顔写真をさらし、犯罪者扱いされてしまうのだからとんでもない話だ。
毎日新聞記者もさすがに、完全な虚偽はまずいと思ったのだろう。記事をよくよくみると、私が金銭を受け取ったとは書いていない。その代わり、私と「協力関係」にある特区ビジネスコンサルティング(特区ビズ社)なる会社が二百万円を受け取ったとし、私と特区ビズ社がほぼ一体かのような図が掲載されている。これも、虚偽に変わりない。私は、特区ビズ社なる会社やその顧客から、一円ももらったことがない。同社の社長は知人だが、知人が経営・在籍する会社はいくらでもある。彼らの会社を「協力関係」と称して、それら会社収入が実質的には私の収入だといわれたら、私は世界有数の高額所得者になってしまう。
「福岡で会食接待を受けた」というのも虚偽だ。記事で指摘されている二〇一四年十一月二十九日に、私はたしかに福岡にいた。十五時まで福岡市中心部で福岡市主催の会議があった。十七時過ぎのフライトに間に合うよう、遅くとも十六時頃には空港に向かった。移動時間を考えれば会食はできない。十五時台に夕食をとる習慣もない。取材にはこう伝えたが、それでも記事が書かれた。
<記事の指摘(二) 審査する側の特区WG委員が、特定の提案者に助言したことがおかしい>
毎日新聞記者はおそらく、「原委員が不正な金銭受領」との記事にしたかったのだろう。特区提案を行った事業者などに数カ月にわたり、「原さんにお金を払っていませんか」と聞きまわったようだ。しかし、金銭受領も会食接待も事実がみつからなかった。そんな事実はないのだから当然だ。
そこで、記事では、金銭云々は別として、「審査する側の特区WG委員が、特定の提案者に助言した」ことが中立性に反して問題だとも指摘している。これも、根本的な間違いだ。提案者に助言することは特区WGの務めであり、不適切でもなんでもない。
続きは「正論」8月号でお読みください。
■ はら・えいじ 昭和四十一年生まれ。東京大学卒業、シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て平成二十一年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理などを務める。著書に『岩盤規制 ―誰が成長を阻むのか』(新潮新書)など。