雑誌正論掲載論文

野党のでたらめ皇位安定継承策(政界なんだかなあ 特別版)

2019年07月05日 03:00

産経新聞論説委員・政治部編集委員 阿比留瑠比 「正論」8月号

 長年、政治の現場を取材していると「どうしてそうなるの」と脱力し、げんなりとする場面にも何度も出くわす。最近では、六月十一日に国民民主党の「皇位検討委員会」(座長・津村啓介副代表)が発表した皇室典範改正案を読み、失礼ながら正気を疑った。

 津村座長は、玉木雄一郎代表との記者会見でこう説明した。

「皇位の順位として、まず直系を最優先し、続いて男子、そして長兄という形で順位をつけた。私たちの改正案が成立した暁には、皇位継承順位は一位が愛子さま、二位が秋篠宮さま、三位が悠仁さま、四位が眞子さま、五位が佳子さまとなる」

 ここだけをみると、女性・女系天皇の容認かと思えるが、さにあらず。一方で玉木氏は、次のように強調したのだった。

「守るべき皇統って、一体何なのか。その皇統というのは(父方の系統に天皇を持つ)男系だ。一義的には男系の系統を守っていくことが、安定的な皇位の継続性を考えていくことが重要だ」

 果たして何がしたいのか、さっぱり理解不能である。

 今上陛下まで百二十六代にわたって皇位は男系で継承されてきたが、「中継ぎ」として十代八人の女性天皇がいた。その意味で、男系女子であれば歴史的には天皇になることは可能だったが、その方々はいずれも在位中は配偶者を持たず、未婚か未亡人だった。

 これに対し、同党案は女性天皇や女性皇族の配偶者を「皇配」として皇族に加えるというものであり、独身でなくても皇位に就けるが、そのお子さまは「女系」となるので皇位継承権はない。

 いわゆる「一代限り」の皇族をその場しのぎで設けて、どうしようというのか。そんなあやふやで意味不明な不自由な立場に、誰が就きたいと思うだろうか。

 この点について津村氏は、こうしどろもどろで語った。

「確かに、悠仁さまの血筋から、さらに皇位継承者を増やしていくという次の世代を視野に入れると、女性天皇を認めることに加えて、女系天皇を容認するという二つの判断が必要になってくると思う。二つ目の点には、現時点では私たちは排除するものではないが留保している。時間軸の違う二つの問題を同時に議論することは、むしろ乱暴ではないか」

 先の玉木氏の主張との間には、明らかに隙間がある。おそらく男系を重視する層にアピールしつつも戦後、皇籍離脱した旧皇族の男系男子の方々らに復帰を願う結論にも至らず、党内の女系容認論にも配慮した揚げ句、こんな玉虫色の結論になったのだろう。

 男系継承を尊重するのか将来的には女系天皇を認めるのかも判然としない、こんな突っ込みどころ満載な皇室典範改正案を、本気で参院選公約にも盛り込んだというから頭を抱えてしまう。

 さらに理解し難いのは、この人たちが皇位継承順位をあまりに簡単に安易に、ご都合主義的に変えようと試みていることである。

 自分たちが正統な皇位継承資格者である皇嗣、秋篠宮さまとその次を継がれる地位にある悠仁さまから、皇位を簒奪し、事実上、廃嫡しようとしているのだということが、分からないのか。

 これがどんなに不遜で危険な発想かに、どうして考えが及ばないのか。歴史の重みとは、そんなに軽視していいものなのか。

 天皇、皇后両陛下の長女である愛子さまをいったん天皇とすれば、やはりそのお子さまを次の天皇にという声が国内外からわき起こることは目に見えている。

 しかし、そのお子さまは女系であり、皇室の伝統上、継承権は持たない立場にある。いわゆる「万世一系」から外れるのである。そうなると、愛子さまの系統と悠仁さまの系統のどちらが正統かをめぐって論争が巻き起こり、「南北朝」問題が起きかねない。

 この点については、女性・女系天皇容認を表明した共産党に近く、皇室と民主主義は両立しないと主張していた憲法学者の故奥平康弘氏も、むしろ女系天皇誕生への期待を込めてこう記している。

「天皇制のそもそもの正当性根拠であるところの『萬世一系』イデオロギーを内において浸食する因子を含んでいる」(月刊「世界」平成十六年八月号)

 そうなれば安定的な皇位継承の実現どころか世論の大きな分断を招き、日本社会全体の平穏すら危うくなりかねない。

 実際に平成十八年二月に宮内庁が秋篠宮妃紀子さまのご懐妊の兆候を発表した際には、女性・女系天皇を認める皇室典範改正に熱心な小泉純一郎首相と、慎重派の安倍晋三官房長官との間で、こんなやりとりがあった。

安倍長官「誠におめでたいことですが、これで皇室典範改正はよくよく慎重にしなければならなくなりました」

小泉首相「なぜだ」

安倍長官「生まれてくるお子さまが男子でしたら、皇室典範改正は正統な皇位継承者であるこのお子さまから継承権を奪ってしまうことになります。(皇子同士が皇位継承で争った)壬申の乱になりかねません」

小泉首相「……そうか」

続きは「正論」8月号でお読みください。

■ あびる・るい 昭和41(1966)年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、産経新聞入社。政治部で首相官邸キャップなど歴任。