雑誌正論掲載論文

おそれながら秋篠宮殿下に申し上げます なぜ婚約延期問題は起きたのか

2019年01月15日 03:00

評論家 八幡和郎 月刊正論2月号

 平成という時代は、皇室にとって悩み多き時代であった。偉大な昭和天皇が崩御されたのちの空白感を、両陛下が「祈りの重視」や「ストイックな公務への姿勢」で克服されたのは、将来の歴史家からも高く評価されるに違いない。

 しかし、昭和44(1969)年の紀宮清子(黒田清子)様の誕生から敬宮愛子様まで9人も女性の宮様が続き、皇位継承権を持つ男子の皇族は生まれなかった。平成18(2006)年に秋篠宮家に長男、悠仁様が誕生されて、危機は脱したが、将来における皇統断絶の不安が消えたわけではない。

 一方、新憲法下における政治と皇室のかかわりとか、皇族の方々のご発言がどこまで自由であるべきかとかについては十分な整理ができないままになっていた。それが表面化したのが、陛下の譲位をめぐる論争や、秋篠宮様の大嘗祭についてのご発言だった。

 また、皇太子妃雅子様は平成16(2004)年から現在に至るまで、公務を十分になさることができない状況にある。そして、皇族の結婚も難航し、秋篠宮家の長女、眞子様の婚約をめぐる騒動も起きてしまった。

 こうした困難がなぜ起きたのかと言えば、皇室が組織として機能せず、両陛下の頑張りだけでしのいで来たからということに尽きる。皇室とここで呼ぶのは、皇族(厳密には天皇陛下は皇族といわないが本稿では含める)と宮内庁、政府の協力により運営される組織全体を指し、宮内庁という場合は事務方を指すものとして使う。

 日本で皇室が万世一系という安定性を持ち得たのは、帝王が独裁者として君臨していた海外と違って、天皇個人のカリスマ性や見識に頼らず、多くの皇族や廷臣たちの意見が反映され支え合う体制だったからである。叡慮が大きな役割を果たす時代もあったとしても、歴代の天皇を育て、支えるシステムが機能してきたからこそのものだ。

 昭和天皇におかれても、乃木希典をはじめとする優れた教師、聡明な母親だった貞明皇后、皇太子時代に欧州巡啓を後押しした山県有朋や原敬といった政治家の勇気があってこそ英明な君主になられた。また、重臣たちの助言があり、戦後の苦しい時期にも入江相政のような優れた侍従がいた。

 ところが、戦後、藩屏としての華族社会はなくなり、陛下にもの申すという皇族も失われていった。宮内庁の役人も優秀で良心的な人がそろっているが、皇室の将来のために、場合によっては諫言するなど摩擦覚悟で闘うとかいう雰囲気ではない。この状態は、ご主人一家と従業員からなる「個人商店」に近く、ご学友など個人的な知己の影響も強くなる。

 また、ヨーロッパの王室や戦前の皇室と違うことは、首相を初めとする政治家と陛下を含めた皇族のあいだの交流が稀薄であることで、憲法が定める「内閣の助言と承認」及び「責任」を重視する精神に沿わないものになっている。

 皇室の抱える問題については、誰が悪いという議論は建設的でない。大事なことは新陛下のもとでの皇室がシステムとして再建されることだからだ。

 眞子様の婚約発表の直後から、小室圭氏のスキャンダルの数々については週刊誌などが取材攻勢をかけ、私のところにも、後に明らかになった諸問題の所在が、数日のうちに聞こえてきていた。

 そのうち、最初に報道されたのは、小室圭氏の父親と祖父の自殺だが、これは、周辺の人なら誰も知っている事実だったからだ。それに、母親の借金、神道系宗教や霊媒師とのかかわりなどが続いたが、前者は最初は取材に応じなかった相手本人が口を開くようになってから報道された。

 この一連のスキャンダル報道の結果、一般の結納に当たる納采の儀が直前になって延期になった。正式婚約前に結婚の是非や解決策を検討できることになったのは不幸中の幸いともいえるが、週刊誌に報道されないと対応しないというのは奇妙な話だ。

 婚約延期の直接のきっかけは、この小室氏の母親の借金トラブルだが、本当の問題は、現時点の資産と本人の収入見通しからいって、未来の天皇の姉夫婦としての体面を維持できる生活が成り立ちそうもないことだと私は思う。

 眞子様は結婚されても皇室と関係なくなるわけではない。テロや誘拐、変質者に狙われやすい立場だから、セキュリティに優れた住居に住んでもらいたい。正式の公務はされないとはいえ、宮中の行事や親戚とのお付き合いには呼ばれる。皇族にゆかりのある人が減っているなかで、黒田清子様のように伊勢神宮祭主とか準公的な名誉役職につくことも期待されており、実家にそれなりの資産があって、配偶者本人も最低限でもエリートサラリーマンとして普通程度の収入がないと苦しいのだ。

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■ 八幡和郎氏 昭和26(1951)年生まれ。東京大学法学部卒。旧通産省(現・経済産業省)入省、在職中にフランス国立行政学院(ENA)留学。『世界の王室 うんちく大全』(平凡新書)。『誤解だらけの皇位継承の真実』(イースト新書)など著書多数。