雑誌正論掲載論文

緊急討論! 中国は世界を支配するか

2018年12月25日 03:00

評論家 八幡和郎 × 国家基本問題研究所主任研究員 湯浅博 × 産経新聞外信部次長 矢板明夫
月刊正論1月号

歴史戦で中韓両国の共闘を分断

――本日は主に中国問題について論じていただきますが、まず韓国最高裁のいわゆる徴用工(朝鮮人戦時労働者)判決を、どうご覧になりますか

 矢板 中国でも、日本に強制連行されたと主張する元労働者が日本企業を訴えています。提訴は2014年2月でしたが、その前年末に安倍晋三首相が靖国神社を参拝しており、それに対する歴史戦の一環として訴訟が起こされたわけです。当時、私は原告団を取材しましたが、数十人の原告団より多くの中国当局者や官製メディアの記者、さらには韓国からも〝応援団〟として弁護士らがやって来て、いかに日本企業と戦うべきかの経験を披露し指南していたのを覚えています。

 当時はまさに中国と韓国が手を組んで日本に歴史戦を仕掛けていたわけです。ところが今回の韓国最高裁判決について、翌日の人民日報は1行も伝えませんでした。この直前に安倍首相の訪中があったのですが、米中貿易戦争で弱っている中国は手のひらを返すように日本に接近しており、日本に不利な情報は新聞にも載せなくなりました。今回の安倍首相訪中は「中国に塩を送った」との批判もありますが、歴史問題で中韓両国を分断させ、韓国・文在寅政権の暴走を孤立させたことは非常に評価できるのではないでしょうか。

 八幡 韓国の最高裁判決にどう対処するかに絞って話しますが、日本国民は「皆、怒っている」と一致団結するしかありません。ちゃぶ台返しをされた以上、こちらもちゃぶ台返しをするかもしれないぞ、という姿勢をきちんと示す必要があるでしょう。

 私は役所で日韓交渉を担当した経験も踏まえて、大胆だが国際的な理解も得られそうな五項目の提案をしています。①日本人が韓国に残した個人財産の返還を要求②対北朝鮮への経済協力はしない③日韓基本条約で在日韓国人2世までは特別永住権が認められているが、3世以降は認めない④歴史教科書における近隣諸国条項を韓国に限って撤回⑤韓国ドラマ、バラエティー番組の流入制限。これらはすべて相互主義で説明がつきますから「場合によっては実行するぞ」と言っていいと思います。

――では今回の安倍首相訪中の評価を

 八幡 日中関係が好転するか悪化するかはまだ何とも言えませんが、隣国ですし互いに重要な市場ですから日中両国は仲良くしたほうが得です。このタイミングで少し救いの手を伸ばして様子を見るのもアリかなと思います。とりあえずは、3つの成功があった。1つは徴用工問題で分かるように中国と韓国との連携を抑えられたこと。2つ目は過去の円借款など対中経済協力に対して、中国が感謝すると日中両国民や世界に公開する形で宣言したこと。これまでODAを進めてきた立場からすれば、その終結に当たって総決算として感謝の意を公的に示してくれたのは非常に嬉しいことでした。

 それから今回、トランプ米大統領との付き合い方を安倍首相に相談したはずです。そこで安倍首相は、習近平主席に対してもトランプ大統領に対しても大きな「貸し」を作れたのではないかと思います。ただ、長期的な日中関係の行方がいい方向に行くかは、あくまでこれから次第です。

 湯浅 安倍首相による今回の訪中は非常に難しいタイミングでの訪中だったと思います。逆に中国からすると、日米両国の分断ができればベスト、というタイミングでした。実は安倍首相と習主席との会談があった日の午前中に、習氏は南部戦区を視察して「戦争に備えよ」と号令をかけています。戦争の相手として米国を念頭に置いている。そして同じ日の午後に安倍首相と会談し「東シナ海を平和と協調の海へ」などと合意しています。巧みな使い分けで、米国との戦争に備える対米牽制が習氏の本音でしょう。

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■ 八幡和男氏 昭和26年生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(現経済産業省)入省。退官後、評論活動に。現在、徳島文理大学教授。近著に『中国と日本がわかる最強の中国史』。

■ 湯浅博氏 昭和23年生まれ。中央大学法学部卒業。プリンストン大学Mid―career program修了。産経新聞ワシントン支局長などを歴任。近著に『全体主義と闘った男 河合栄治郎』。

■ 矢板明夫氏 昭和47年、中国・天津市生まれ。15歳の時、中国残留孤児2世として日本に引き揚げ。慶応大学文学部卒業。産経新聞社に入り、平成19年に北京特派員。29年から現職。