雑誌正論掲載論文

北朝鮮への宥和論が拉致解決を遠ざける

2018年08月05日 03:00

参議院議員 山谷えり子 × 拉致被害者家族会事務局長 横田拓也 月刊正論9月号

 ――いま拉致問題の解決に大きな期待が集まっています。トランプ米大統領は6月12日の米朝首脳会談後の記者会見で、日本人拉致問題について「共同声明に盛り込まなかったが、(会談で)取り上げた。安倍晋三首相の最重要課題でもあるからだ」と述べました。

 横田 米朝首脳が交した共同声明で、北朝鮮の核に関するCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄)や拉致は触れられていないという話だけが先行して伝わってきたので、当初は若干、拍子抜けというか、「これで大丈夫かな?」という心配がありました。ただ、後になって、トランプ大統領が12日夜の安倍総理大臣との電話会談で「今後は非核化と同時に拉致問題の交渉も進めていかねばならない」「「百パーセント、シンゾーを信頼しているから、一緒にやっていこう」などと報告していたと聞いてからは、トランプ氏が本当に総理との約束を守って、金正恩朝鮮労働党委員長を前にしてしっかりと拉致に言及してくれたんだなと心強く感じましたし、今後の進展を期待しているところです。

 山谷 私はトランプ大統領が拉致に言及してくれると思っていました。信頼する安倍総理から常々、「日本には拉致という深刻な問題があり、いまだ解決されていない。自分にとって大きな政治課題だ」ということをお聞きになっていたからです。また、5月に家族会、救う会、拉致議連のメンバーと訪米、ホワイトハウスの安全保障会議、国防総省、国務省を訪問し、高官と意見交換をしましたが、「大統領から拉致問題にしっかり取り組むよう指示されている」と言われ、実に心強い対応でした。ニューヨークの国連本部では、北朝鮮の人権侵害をテーマにしたシンポジウムが開かれ、拓也さんを含む拉致被害者家族らが解決を訴えました。私も同席したのですが、多くの米国メディアの取材、各国の国連大使の出席もあり、これまでとは全く違う温度を感じました。

 今、米国のメディアや国民も、北朝鮮がまともな国として発展していくためには人権抑圧状態、拉致問題を解決しなければならないという認識を持っています。北朝鮮で拘束されて昏睡状態となり、アメリカに帰国して間もなく亡くなったオットー・ワームビアさんのご両親が、国連のシンポジウムで「北朝鮮という残酷な国の闇に光を当てなければならない。私たちはそのために闘う」と発言したことも多くの人々の心を捉えているのだと思います。

 横田 トランプ氏は米朝首脳会談について「大成功だ」とコメントされていますが、評価は歴史が下せばいいのではないかと思っています。今後、ポンペオ国務長官とボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、北朝鮮側と具体的な交渉に入ると報じられていますが、その場で国際社会は北朝鮮の本気度、誠意の有無が判断できると思います。それによって米朝首脳会談が真の意味で成功したのかどうかが分かります。

 山谷 米朝首脳会談の評価はまさに歴史が決めると私も思っています。その首脳会談を成功に導くキーパーソンは安倍総理ではないかと私は感じています。今後、アメリカが間違った方向へ行きそうになった時に「それは違うでしょう」と説得、説明できるのは安倍総理くらいしかいないからです。第二次安倍政権が発足してからの5年半で、日本の情報収集能力は強化され、さらには「地球儀を俯瞰する外交」によって各国との親密度も高まっています。日本の情報と外交のパワーに加え、直感力に優れた総理の存在が、米朝首脳会談を成功に導く一因になると信じています。

 ここで大切なのは、米朝首脳会談によって拉致問題がクローズアップされたとはいえ、宥和ムードに乗せられて北朝鮮に対する圧力を緩めてはいけないということです。具体的な行動が見えるまでは「北朝鮮対国際社会」という構図を崩してはいけません。金正恩委員長は米朝首脳会談で「安倍首相と会ってもいい」と述べたと報じられていますが、その後、北のメディアは「拉致は解決済みだ」と報じており、いつものように日本を揺さぶろうとしています。

続きは月刊正論9月号でお読みください

■ 山谷えり子氏 昭和25(1950)年生まれ。聖心女子大学文学部卒業。サンケイリビング新聞編集長などを経て政界入り。衆院当選1回、参院当選3回。拉致問題担当相、自民党参院政審会長などを歴任。

■ 横田拓也氏 昭和43(1968)年生まれ。昭和52年に新潟市で拉致された横田めぐみさん=当時13歳=の弟。会社員として勤務しつつ、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)の事務局長を務める。