雑誌正論掲載論文

野党再建論 18連休明けの議員たちに捧ぐ

2018年06月15日 03:00

評論家 江崎道朗 月刊正論7月号

 混乱する国政をどう考えたらいいのか、「共産党」、「連合」そして「議会制民主主義の欠陥」というキーワードを使って考えてみたい。

 昨年から最大野党の民進党が分裂・合流を繰り返しているので、その経緯をまず簡単に整理しておこう。

 昨年秋、支持率が低迷していた「民進党」の前原誠司代表の呼びかけで小池百合子東京都知事率いる「希望の党」へと民進党の一部が合流し、衆議院選挙を戦った。

 その際、希望の党側が入党の条件として現実的な安全保障政策への合意を掲げたことに反発し、枝野幸男氏ら民進党左派グループが「立憲民主党」を結成した。また岡田克也氏らは希望の党にも立憲民主党にも所属せずに「無所属の会」という会派を結成した。この段階で民進党は三分裂したわけだ。

 昨年秋の衆議院選挙では、希望の党が躍進するかに見えたが、実際は立憲民主党が躍進した。その理由は大きく言って三つある。

 第一に、希望の党が現実的な安全保障政策を掲げたため、「安倍自民党の補完勢力だ」と見なされ反「安倍」を標榜するマスコミから徹底的に糾弾され、世論の支持を急速に失っていったことだ。「内部留保」課税といった経済政策を掲げたため、ビジネス層から反発を受けたことも失速の一因だろう。

 第二に、共産党との連携を模索する立憲民主党の候補がいる選挙区では、2万票前後の基礎票を持つ共産党が出馬を取りやめ、立憲民主党候補の支援に回った。このため立憲民主党候補は思った以上に当選することができた。一方、希望の党の候補者は共産党と票を奪い合い、与党候補に敗北した。

 第三に、野党の最大の支持母体、労働組合のナショナルセンター「連合」の対応ミスだ。

 連合はもともと「現実的な安全保障政策」と「反共」を掲げる民間労組の同盟系と、「反戦平和・護憲」と「容共」の日教組・自治労などの総評系の二つの労働組合の連合体が合体して一九八九年に創設された組織だ。

 労働組合というと、サヨクのイメージを持つ人が多いが、実態は必ずしもそうではない。例えば、旧同盟系のUAゼンセン同盟は、北朝鮮による拉致被害者奪還の署名運動を熱心に取り組んでいて、憲法改正にも前向きだ。

 昨年秋の衆議院選挙では、この連合の執行部は、総選挙直前に民進党が分裂したこともあって、希望の党と立憲民主党のどちらを応援していいのか、決めることができずに静観した。

 ところが現場では、日教組ら旧総評系が懸命に立憲民主党の候補を応援したのに対して、旧同盟系は静観し、希望の党を懸命に応援しなかった。

 昨年末に旧同盟系労組の幹部は「建前としては希望の党の候補を支援しようとしたが、組合員の多くは自民党を支持したようだ」と語っていた。

 民間労組の組合員たちの多くが景気対策を懸命に取り組んでいる安倍政権を支持するようになっていたのだ。それは、旧同盟系の組合が野党の集票マシーンとして機能しなくなってきている、ということでもある。

 かくして昨年の衆議院選挙では、安倍自民党が284議席を獲得し圧勝した。第二位が立憲民主党の55議席、第三位が希望の党の50議席となった。立憲民主党は15議席から55議席へと40議席増となった一方で、希望の党は57議席から7議席減の50議席となった。

 その結果を見た野党議員たちは、選挙に勝つためには、共産党や総評系が主張する「安倍政権打倒、安保反対」を掲げた方がいいと受け止めた。これが今年に入っても野党(日本維新の会を除く)が森友・加計問題などで「安倍政権打倒」を叫ぶクレイマー政党になってしまった大きな要因だ。

 この状況を苦々しく見ていたのが、連合の執行部だ。特に神津里季生会長は旧同盟系であり、現実的な安全保障政策を支持していて、立憲民主党の台頭に危機感を抱いていた。

 そこで神津会長らは「現実的な安全保障政策」「景気対策重視」そして「共産党反対」を掲げる野党結集を望み、希望の党と無所属の会、そして参議院の民進党が合流するよう求めた。

 この旧同盟系の要望を受けて国民民主党は綱領で「穏健保守からリベラルまでを包摂する国民が主役の中道改革政党を創る」という理念に掲げ、希望の党、無所属の会、そして参議院民進党の所属議員を再結集しようとしたのだ。

 尤も旧同盟系の思惑通りに、ことは運ばなかった。参議院の民進党は53名、希望の党は54名なので合流により107名になって国民民主党は衆参ともに野党第1党になるはずだったが、実際は衆議院議員が39名、参議院議員が23名の計62名にとどまった。

 かくして5月8日に発足した「国民民主党」は衆議院では立憲民主党から野党第1党の座を奪えなかった。参議院では野党第1党になったものの、25名の公明党に及ばず第3会派になった。

 しかも、この国民民主党の結党に対して立憲民主党と共産党は「野党分断だ」と非難した。立憲民主党の枝野代表や自由党の小沢一郎代表らは、来年の参議院選挙で共産党を含む野党統一候補を擁立し、自民党に勝利しようと考えていたのに、共産党との連携に否定的な国民民主党が出来てしまったからだ。

 こうした共産党や枝野代表の意向を踏まえてか、マスコミは意図的に国民民主党を揶揄し、批判した。結果的に立憲民主党こそ本当の野党であるということを国民に刷りこむためだ。

 その宣伝工作は成功し、国民民主党の支持率は低迷し、立憲民主党(と共産党)こそが真の野党だというイメージが確立されてしまった。

 以上のように今回の国民民主党結党の背景には、連合の旧同盟系と、共産党・旧総評系との対立がある。ここで、なぜ旧同盟系が共産党をそれほど嫌うのか、説明しておこう。

 どこの国でも共産党は「民主主義を守れ」と叫んでいるが、全世界の共産党の生みの親であるコミンテルンは結成当初から議会制民主主義を破壊することを目的と掲げている。よってアメリカのように「民主主義を守るために」共産党だけ結党を禁じている国もあるほどだ。

続きは正論7月号でお読みください