雑誌正論掲載論文

正論コロシアム 譲位の儀式は憲法上、問題あり? 本当は恐ろしい国民主権…

2018年05月25日 03:00

評論家 三浦小太郎 VS 大和大学専任講師 岩田温 月刊正論6月号

 ――天皇陛下の譲位に伴う主な儀式が国事行為として行われることに決まりましたが、これを現在の憲法に照らして、どう考えますか

 岩田 私は「問題ない」という立場です。御代替わりの行事は当然、国事行為とすべきでしょう。これまで約200年なかった譲位を行ってよいのかどうかという議論もあるかと思いますが、象徴天皇制度の下での天皇は、これまで昭和天皇と今上陛下しかおられません。その今上陛下が考え抜かれた結論が今回の譲位ということであるならば、その結論は非常に重いものがあります。

 私も陛下が譲位の意向をにじませられた放送を拝見しましたが、思わず泣いてしまいましたよ。これだけ重い譲位に伴う行事を国事行為にしないなどということは、憲法うんぬん以前に、国民的な議論として成り立たないのではないか。これを国事行為とせずに、いったい他の何が国事行為なのか、と思いませんか。天皇陛下が、この平成という時代にピリオドを打ち、新しい時代にされたいとおっしゃったようなものでしょう。その御代替わりの行事は当然、国事行為であるべきですし、共産党や朝日新聞などは反対のための反対をしているのではないか、と思えてなりません。日本人の感性として受け入れがたいですね。

 三浦 ただ現在の憲法を前提にして考えれば、「国事行為とするのは憲法違反」という共産党の主張にも一定の理があると言わざるを得ません。しかし、そうなると基本的には憲法を改正しなければならないわけですが、もちろんご譲位には間に合いませんから、ではどう考えねばならないか、という話ですね。

 今上陛下が譲位されることについて、法的に国事行為なのか、それとも公的行為なのかという議論はあり得ます。しかし、今の憲法においても第1条は天皇についての規定から始まっているわけです。そのような中で、今上陛下がなさることを国事行為としなかった場合にどうなるのかを考える必要があるでしょう。

 今の憲法、法律に当てはめて「これは国事行為ではない」という議論をし始めると、必然的に「まつりごと」をされる皇室の存在を否定するところに行き着いてしまいます。御代替わりの行事が国事行為でないとしたら皇室の私的行為か、あるいは精一杯、認めても公的行為ギリギリのところということになるでしょう。これは日本国から皇室伝統を切り離すことになりかねません。その危険性に比べたら、法的には少々無理があることを認めながらも、国事行為とするべきだと、私も思いますが。

 岩田 共産党の主張などに一定の理解を示す必要などないと、私は思います。今すぐ憲法を改正できるわけもないのに、あえて「国事行為はけしからん」と言っている人たちの議論は「ためにする議論」に他なりません。国民が最大限、努力してご譲位が実現されようとしているときに、保守の側として「国事行為であることは問題だ、という共産党の主張も一理ある」ということは、言うべきではないと思います。

 三浦 お気持ちは分かりますが、現にある憲法の条文を無視するわけにもいきません。ここは非常に難しいところですが、共産党などの主張は、現在の憲法や法律が非常に危ういものであることを突いており、一刻も早く改正する必要があると気付かせてくれたわけです。

 天皇陛下が祈りとともになされることは、すべて日本国の国事行為とみなすのは当然のことだ、との考えは多くの日本人に受け入れられると思いますし、それに反対する言論は、「自衛隊は存在してはならない」といった主張と同様の〝法匪〟の議論です。

 岩田 だからこそ強調しておきたいのは、共産党のような議論に乗ってはいけないということです。共産党が3月末に公表した「天皇の『代替わり』にともなう儀式に関する申し入れ」には「わが党の提案は、天皇制反対の立場ではなく…」などと書いてはありましたが、実際には皇室を潰してやりたいという感情が先にあって、そのために憲法を利用しているのではないですか。決して、本当に憲法を尊重しよう、皇室を尊重しようという意図から出ているものではありません。そこはきちんと押さえておく必要があるでしょう。

 三浦 たしかに、かつて「天皇制打倒」を掲げていた昔の共産党のほうが正直でしたね。

 岩田 いや、今も言っているんです。共産党も天皇陛下が臨席される国会開会式に出席するようになりましたが、未だに共産党は「天皇は民主主義に合わない」と言っているのです。共産党の綱領には「党は、一人の個人が世襲で『国民統合』の象徴となるという現制度は、民主主義および人間の平等の原則と両立するものではなく」「民主共和制の政治体制の実現をはかるべきだとの立場に立つ」と明記されています。本質的にあるのは皇室への憎悪と、日本という国への憎しみ、日本の歴史に対する否定なのです。

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■ 三浦小太郎氏 昭和35年、東京都生まれ。獨協高校卒業。アジア自由民主連帯協議会事務局長などを務める。著書に『嘘の人権 偽の平和』『収容所での覚醒 民主主義の堕落』『言視舎評伝選 渡辺京二』。

■ 岩田温氏 昭和58年、埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大大学院政治学研究科修士課程修了。専攻は政治哲学。著書に『逆説の政治哲学 正義が人を殺すとき』『「リベラル」という病』など。