雑誌正論掲載論文
ピント外れの国会審議 もう1つのモリカケ問題
2018年05月05日 03:00
元財務官僚 山口真由 月刊正論6月号
異例の土地取引からはじまり、財務省による公文書改竄という、さらにありえない第二幕を迎えた森友問題は、佐川宣寿前理財局長の証人喚問を経てもなお、多くの疑問を残す。いったい誰が、誰の指示で、なぜ公文書を改竄するに至ったのか。現時点で、ほとんど何も明らかにならないまま、昨年2月、財務省理財局職員から学園側の弁護士に対し、ごみ撤去費用について「相当かかった気がする、トラック何千台も走った気がする、といった言い方をしてはどうか」と口裏合わせの依頼がなされたという、新たな失態が判明する。中央官庁に対する国民の不信は、ますます深まっていくばかりだ。
真相が明らかにされないまま、疑念だけが深まっていく背景には、国会がパフォーマンスの場と化している問題点があるのではないか。国権の最高機関たる国会は、真摯に議論し、漸次に真相に迫っていく場所であってほしい。森友問題の追及に関して、①「安倍総理の関与」の一点突破を狙うパフォーマンス②一言を炎上させるパフォーマンス③官僚を恫喝するパフォーマンスについて考えたい。
森友問題は、異例の土地取引と財務省による文書の改竄との、大きく二つに分けられる。それぞれについて登場人物は異なる。前者においては、学園からの講演依頼を引き受け、また、名誉校長にも就任した昭恵夫人の存在が、役人の忖度を生み、過剰な値引きを引き出したのではないかとやり玉に挙げられた。その際に、国有財産審理室長の田村嘉啓氏に、総理夫人付きの谷査恵子氏から問い合わせがなされたことも問題となった。
ところが、文書改竄問題となると、昭恵夫人や谷氏の出る幕はない。文書の改竄については、異動でイタリアに旅立った谷氏はもとより、間接的にせよ関与する立場にはない昭恵夫人も与り知らぬこと。代わって、文書改竄のキーパーソンとなったのが佐川氏だった。
もともと、本省の理財局長ともなると、10億円以下の土地売却に直接口を出すことはまずない。佐川氏の就任時期を考えても、国有地払下げをめぐる学園側とのやり取りは概ね終わった後であろう。とすると、昭恵夫人や谷氏とは逆に、佐川氏は、文書改竄のキーパーソンである代わりに、異例の土地売却について直接操作しうる立場にもなかったということになる。
ところが、この二つの異なる問題は、半ば意図的に混同されている節がある。佐川氏に証人喚問をする準備と称して、野党議員6人が、籠池泰典氏に会うために大阪拘置所まで赴いたとなれば、それは明らかだろう。喚問準備で多忙を極める(はずの)中、大阪まで出張して、手にしたのが、詐欺罪で起訴されている籠池被告の「うそを言ったらあかん」という言葉とは…。籠池被告との面会後に会見する野党議員を前に、絶句したのは私だけではあるまい。
面会した希望の党の今井雅人氏の言葉を借りると、籠池被告は、文書改竄問題については「まったく知らない、逆に驚いた」という。それを額面通り受け止めるかはともかく、彼が文書改竄問題の主要登場人物ではないことは明らかだ。佐川氏に続いて、谷氏や昭恵夫人を国会招致するための下準備とも取れるが、それならば、佐川氏の証人喚問で十分な成果を上げてから、情報収集に赴けばよかったのではないか。籠池被告のもとを訪れたのは、報道陣を集めたいがためのパフォーマンスといわれても仕方がないだろう。
さらに、この意図的な混同は、証人喚問それ自体においても明らかだった。午前中の質疑で自民党の丸川珠代氏の次に質問に立った民進党の小川敏夫氏は、検事の経験を買われて、切り込み隊長に任命されたとも聞く。ところが、彼は、貴重な質問時間の後半部分のほぼすべてを、総理夫人付の谷氏と国有財産審理室長の田村氏とのやり取りを訊ねることに費やした。「直接知らない」という佐川氏の逃げ口上を、野党自ら与えたようなもの。当然、のらりくらりとかわされる。
公平を期すために付言すると、まず、佐川氏への証人喚問はとても難しかった。
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■ 山口真由氏 昭和58(1983)年生まれ。東京大学法学部卒業。財務官僚を経て渡米、2016年にハーバード・ロースクールを卒業し、ニューヨーク州弁護士登録。