雑誌正論掲載論文

毒舌放談 モリカケ〝人民裁判〟は国会議員の思い上がり

2017年12月15日 03:00

大阪大学名誉教授 加地伸行 × 文藝評論家 小川榮太郎 月刊正論1月号

 加地 小川さんのデビュー作『約束の日 安倍晋三試論』を読ませていただきましたが、あの本の最後のほうで「権力闘争への志向を持たず、政策実現のための政治闘争に身命を賭せる資質のある政治家は稀である」と書いておられる。これが安倍さんのいいところですよね。一方で安倍さんが気の毒なのは、弁が立たないというか、華やかな表現ができないところです。

 小川 そのような印象があるかも知れませんが、実は、安倍首相は内輪の会合では座談の名手なんですよ。公的な場では、失言をしてはいけないというブレーキが効いているのでしょう。それゆえ舌禍はほぼゼロです。

 加地 なるほど。そういえば、自民党が野党だった頃に、第1次安倍内閣で内閣官房副長官だった的場順三さんが、私と佐伯啓思さん、山内昌之さんを呼んで、安倍さんを交えて会食する機会を作ってくださったことがありましたが、その時、安倍さんはほとんどしゃべりませんでしたね。

 その時に私は安倍さんに、一つ意見具申したんですよ。内容は本誌2012年9月号「橋下徹よ 日本の破壊者となれ」に収められていますが、「小池百合子さんを首相に据えて、ご自身は副総理兼文部科学相といった形で入閣される。そして小池さんには2年で交代してもらい衆院議長になっていただいた上で、安倍さんが首相に再登板してはいかがか」という趣旨でした。小池さんは今、希望の党が躍進できず散々に言われていますが、あの方は切り込み隊長としては実に適任でしょうから。ただこの提案に対しても安倍さんは何もおっしゃらなかったので、ご機嫌を損ねたのかなあ、と思っていたのですが…(笑)。

 小川 そんなことはないでしょう。再登板前の安倍さんは、人の話をとにかく聞く、という姿勢に徹していたようです。

 加地 当時は体調も完全に回復してはいなかったでしょうしね…。そういえば、御新著『森友・加計事件』がかなり売れているそうですね。私も読ませていただきました。

 小川 早速、読んでいただきまして光栄です。新聞、テレビでは森友・加計問題が何だかさっぱりわからないので、本当はどんな事だったのかを1冊にまとめたんです。この1年は日本人のあり方、道徳、そしてデモクラシーがこれでよいのかが根本から問われたように思います。例えば国会の証人喚問は偽証罪にも問われるのに、籠池泰典・森友学園前理事長はハッキリと分かる偽証を議事録に多数、残しています。

 加地 まさにそこに書かれている通りですよね。籠池氏は「安倍さんが幼稚園を訪問した」ということを月刊誌「致知」に書いていながら、それは間違いだと後で弁解していましたよ。著者であれば当然、校正ゲラは見ているはずなんですが(笑)。これは、籠池氏がいかにインチキな人物かの証明の一つです。自分が話していないのならゲラで直す機会は当然、あったのですから。

 小川 加計問題で証言していた前川喜平・前文科事務次官が出入りしていた出会い系バーにも私は行ってみました。信じがたい場所で、日本の文科行政のトップが仕事の後にこのような場所に通うとは、と足元が崩れていくような衝撃を受けました。男性客が1時間3千円で女性は無料。そして男性が女性を選び、話が合えば連れ出していく。女性の目的はハッキリしていて、カネです。そんな場所に現職の事務次官が、多いときで週に3~4回も通っていた、それを日本の社会は許したわけです。今年の日本社会は、安倍政権を叩く側の、こうした無原則、不道徳、嘘をあまりにも多く許し過ぎました。

 私は先にご紹介下さった拙著で、森友・加計問題は朝日新聞が主導した陰謀・虚構であることをファクトに基づき実証しました。大新聞が毎日ウソの見出しをつけ続けて、政権を追い込むことを、日本社会は許してしまった。こうした無原則を国政規模でいくつも許したことは計り知れない禍根です。将来、同様のことを許す前例となってしまいますから。

 加地 そうなんです。これは大変なことです。だいたい、森友学園も加計学園も、安倍首相との間に金品の授受はないんでしょう。

 小川 当然ありません。それを、「総理のご意向」や忖度があったと、内心の問題を取り上げているだけなんです。それも役人側の内心の問題を首相の責任にしている。

 加地 もう無茶苦茶な話ですね。そんなことを言ったら、何でもこじつけられる。しかも、朝日新聞は大々的に報じた「総理のご意向」の文書を、公開はしていないんですよね。

 小川 異常なことに、文書の中の2カ所を公開しているだけです。「総理のご意向」の部分と「官邸の最高レベルが言っている」との部分です。

 加地 私が特におかしいと思うのは新聞の見出しです。朝日はそこで、疑惑をあおるようなことを書いている。記事では詳しい説明をしているのですが、そこでは疑惑の具体的なことが書いてない。しかし、一般の読者が新聞を広げて見るのは見出しだけですからね。

 小川 実際「政権 疑惑次々」と見出しにあって、記事を読んでみると疑惑は全く書いていない。「創作見出し」だらけでした。

 加地 しかし、この見出しのマジックが大きい。見出しだけを追っていったら、たしかに安倍政権が悪いことをしているかのように見えてしまう。

 小川 しかもこの見出しが、テレビのワイドショーで大写しされる。朝日新聞はそこまで計算していますよ。これはもう、情報謀略です。

 加地 多くの読者、視聴者はそれに引っかかっていますよ。朝日新聞の狙いは明らかに倒閣ですよ。

続きは正論1月号でお読みください

■ 加地伸行氏 昭和11年生まれ。京都大学文学部卒業。文学博士。中国哲学専攻。名古屋大学助教授、大阪大学教授などを歴任。著書に『加地伸行(研究)著作集』(全3巻・研文出版)、『儒教とは何か』(中公新書)、『漢文法基礎 本当にわかる漢文入門』(講談社学術文庫)など。

■ 小川榮太郎氏 昭和42年生まれ。大阪大学文学部卒業、埼玉大学大学院修士課程修了。日本平和学研究所理事長。最新刊に『徹底検証「森友・加計事件」 朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)、『徹底検証 テレビ報道「嘘」のからくり』(青林堂)など。