雑誌正論掲載論文
ルペン旋風のフランスで何が起きていたか
2017年06月15日 03:00
前衆議院議員 杉田水脈 月刊正論7月号
フランスで「極右政党」と揶揄される国民戦線の党首マリーヌ・ルペン(Mariine Le Pen)氏は2017年大統領選挙で、かの国に大きな旋風を巻き起こしました。上位2者の決選投票で敗れはしたものの、大統領選の直前(2月ごろ)まで、大統領候補の最有力と目されていたのも事実です。
私が国民戦線のマリーヌ・ルペン党首に注目し、取材をしたいと思ったきっかけ、それは衆議院議員時代(2012~2014年)に遡ります。所属していた日本維新の会が2つに割れ、「次世代の党」が誕生しました。ベテランから若手まで国を想う政治家が集まった真の「保守政党」誕生でしたが、インターネットなどでは「極右政党」と言われていました。次世代の党は当初から独自の国際ネットワークの構築を目指していました。巨大化した自民党ではできないきめ細やかな「議員外交」がこれからの日本には必要と見越し、国際局を設置し、アメリカ、フィリピン、台湾などを訪問し、各国の国会議員とのパイプを作ろうとしました。私は「フランスの国民戦線と交流をしたい」と思い、企画を持ち込みました。「極右政党」と揶揄される政党が、如何に保守政党として国民の支持を勝ち得たのか、今後の党の手本になると考えたからです。この企画は直後にあった解散総選挙で日の目を見ることはありませんでした。
いよいよ、5年に一度の大統領選挙となった2017年、私は渡仏する決心を固めました。日本のマスコミは―昨年のアメリカ大統領選挙でもそうでしたが―公平な目で報道を行いません。「ナショナリズム」に厳しく、「グローバリズム」に寛大な態度で偏向報道を行います。私は、自分の足で歩き、自分の目で見て情報発信をするという姿勢を貫いてきましたので、ぜひ、今フランスで何が起こっているのか? 国勢はどうなのか? 世論はどうなっているのか? 真実の姿を日本に伝えたいと思い、パリを目指しました。
国民戦線の取材をするにあたり、まずは中山恭子参議院議員の事務所を通して外務省に協力をお願いしました。前衆議院議員という立場で、先方とのアポイントメントや通訳、現地での案内などをお願いしたのですが、外務省から返ってきたのは「国民戦線とは表立ったルートがない。」という返答。党の窓口のメールアドレスを教えるので、自分でやってくださいとのことでした。一緒にルペン氏のライバル候補の連絡先もお願いしていました。私は当然今回最終決戦を制したエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)氏を想定していたのですが、外務省からのリストには社会党と共和党のみで、マクロン氏の「前進!(En Marche!)」はありませんでした。アメリカ大統領選挙の際もヒラリー氏の勝利を想定してトランプ氏とはルートが無かった外務省。全く反省していないと感じました。
仕方がないので、通訳の手配もアポ取りは全部自分でやることになりました。国連でともに活動したメンバーから現地で協力いただける方を紹介いただきました。まずは日本語で作成した私の文書をフランス語に訳してもらい、何度か担当者に送付しました。が、まったく返事をいただけないまま、フランスに出発する日を迎えたのです。
大統領選の取材の第1回は4月12日から2週間で、パリに滞在しました。17日は復活祭翌日の月曜日ということでパリはお休み。大統領選有力候補2人の演説会が開かれるということで、地下鉄を乗り継いで行ってきました。15時〜Accord Arena Bercyにてマクロン氏、20時〜 Le Zénith Paris – La Villetteにてルペン氏。どちらの会場も警察が取り囲む厳重体制。
マクロン氏の演説会は、到着したのが遅く、会場の外の大スクリーン前で見ました。
ルペン氏の方は、最寄りの駅で降りる用意をしていたら、なんと地下鉄が停まらずに通り過ぎました。仕方なく一駅先の駅で降りて引き返したのですが、後で現地の人に聞くと、デモや大きな集会をやっている駅には停車しないことが多いそうです。日本では考えられません。
会場に入るまでいくつもの関門があるのですが、片言のフランス語と英語と作ってきた名刺を見せてなんとか中に入ることができました。
三人の男性の応援スピーチの後、ルペン氏登場! そこから1時間半に亘る演説。「講演」ではなく「演説」です。途中、国歌の大合唱が二回。会場の一体感が半端なかったです。現代の日本の政治家でこれができる人はなかなかいないのではないでしょうか。最後まで見事な熱弁でした。ただ、会場が満杯で外の大スクリーン前も人で埋め尽くされていたマクロン氏の会場と比べ、こちらは後部に空席もちらほらありました。
会場の外は反対派と警察の衝突があったようで、駅までの道には投石やガラスの破片が散らばっていました。
19日、ホテルに戻る時、またまた最寄り駅を地下鉄が通過。次の駅で降りて引き返すとレピュブリック広場でブノワ・アモン(Benoît Hamon)氏の集会が開かれていました。
17日に見た集会と比べてこちらの方が「フランスの王道」といった感じでした。今まで与党だった社会党ですから、掲げている政策が高齢者や子ども、女性に優しいのもフランスの保守本道かもしれません。変わったところでは大麻の合法化も彼の公約に入っています。左派ではありますが、国旗がはためき、最後は国歌の大合唱。日本の感覚だとびっくりするかもしれません。左派も右派も国旗、国歌に敬意を払い、愛国心はみんな強い。その上で政策としてコンサバティブVSリベラルを戦わせる、これが海外の選挙です。異常なのは日本の方なのです。
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■ 杉田水脈氏 昭和42(1967)年生まれ。鳥取大学農学部卒。日本維新の会から出馬し衆議院議員を1期務めた。現在は取材、言論活動を行っており、著書多数。