雑誌正論掲載論文
対談・その法案、ちょっと待って 立候補者を男女均等にすれば政治は良くなるの?
2017年04月25日 03:00
参議院議員 山谷えり子 × ジャーナリスト 有本香 月刊正論5月号
有本香氏 朝日新聞が2月23日付朝刊一面で「候補者数『男女均等』に 政党に努力義務、法成立へ」と題して、「政治分野における男女共同参画推進法案」が今国会で成立する見通しであることを大々的に報じました。報道を見て私は「いよいよこういう流れが現実になってしまうのか」と感じました。
まず、申し上げたいのは、日本で女性の政治参加がもっと進むことには私も賛成です。しかし、二、三年前にこの法案への流れについて複数のメディアで警鐘を鳴らしました。具体的に何を懸念したかというと、男女の数や比率をあらかじめ定員として設定するクオーター制の導入につながるからです。クオーター制の導入を目指す勢力は野党ではなく自民党内にありました。
実際、女性の議員の数はどのくらいか。衆議院で約10%を切っていて9・26%です。数字をみるとさすがに少ないと感じます。高等教育が普及した日本では、大学出の女性など珍しくない。そう考えるともっと高くてもいいと思います。
そもそも男女の数が均等なことが理想なのか。そういうレベルから本来は考え直さなければいけないと思うのです。日本において、男と女が政治家を目指し選挙に出る場合に、チャンスが均等に与えられない仕組みや制度があるなら、それは廃さなければなりません。けれども今の日本で、そうした機会における差別はほとんど存在しません。
もちろん、女性が政治以外の分野でキャリアを築こうとしたら、結婚出産で不利になってしまうことがあることは否めません。でも、なぜ、女性が政治進出をしないのかを、より深く本質的に掘り下げて考えなければならないのではないでしょうか。つまり政治に参加「できない」というより、「しない」のだと思います。山谷議員を前に言うのは少し憚られますが、政治の世界が女性にとって魅力がないという面は見逃せない気がする。ですから、女性の政界進出や社会進出を高めること、これを考えるときに、定員ありき、そして数が均等になることを理想に置くことは、問題があると思います。
山谷えり子氏 民進党、共産党、社民党、生活の党は、国と地方議会の議員の候補者を“できる限り同数に”という法案を提出していました。それに対し、自民党、公明党、日本維新の会は「できる限り均等」という案を作りました。今国会では、与野党案として「均等」案が提出される予定です。“均等”は、辞書を引けば「差がないようす」で同数と似た意味です。この法律を自民党の総務会で議論したとき「これはクオーター制ではありません」と法案の提出者が強調し、通ってしまいました。しかし、この法律はどう見てもクオーター制的な考え方、思想に根ざしている。党の内閣部会で議論したときも、すごくもめました。私は慎重意見を言い、怒号が飛び交い、それを産経新聞が報じました。
誤解のないように申し添えますが、私自身は女性の政治参画の拡大に反対しているのではありません。女性の政治参画を増やすことは大賛成です。ただ、この法律にはこんな条文があるのです。
《第二条 政治分野における男女共同参画の推進は、衆議院議員、参議院議員及び地方公共団体の議会の議員の選挙において、政党その他の政治団体の候補者の選定の自由、候補者の立候補の自由その他の政治活動の自由を確保しつつ、男女の候補者ができる限り均等となることを目指して行われなければならない》
理念法に過ぎないから大きな変更はないだろう、罰則はないのだから大きな変更とはならない、といった意見もありました。条文には「候補者選定の自由」「候補者の立候補の自由」「政治活動の自由」を「確保しつつ」ともあって、立候補したいという候補者の自由が奪われることはない、と踏んでいる国会議員も多いです。
しかし、本当にそうでしょうか。ここは「政党は女性候補者の擁立拡大に努めるものとする」と書けばいいわけです。それをこんな風な条文にすると、政党は候補者擁立のさい、男女の候補者を均等とする、少なくともそれを目指さなければならなくなります。いろいろ留意すべき条件がついてはいますが、この条文のエッセンスはそういうことです。理念法だから大丈夫と言いますが男女均等を理想だとして、これを正しい姿として追い求めるよう法律が課すわけです。そして男女均等の擁立が実現できなかった場合、罰則が科されなくても、違法だと言われる恐れはある。メディアや対立する勢力は法律を盾に攻撃可能ですし、そうならなくても順法精神に悖る話ですから道徳観からも問題と思います。罰則がないから何も変わらなくてよい、という話にはなりません。
有本 いざ候補者擁立の段になって大混乱が起こるでしょうね。マスコミは選挙のたびに男女の候補者の数が幾つで、この政党は法律を通したのに駄目だと烙印を押すようにたぶんなっていくのだろうと思いますね。
山谷 現実に、具体的な候補者調整は困難を極めると思います。小選挙区選挙では候補者調整は難しい。私は参議院の全国比例選出議員ですが、参院の全国比例の場合、候補者は自分の個人名を書いてもらわないと当選できない仕組みになっていますから、男女均等にするといっても、これまたなかなか難しい。ただ、衆議院の比例ブロックならば政党が名簿順位を決めることができます。衆議院の比例ブロック選挙はあらかじめ政党が示す名簿に順位がなければ、小選挙区で敗れた惜敗率に応じて高い候補者から復活当選しますが、もし単純に女性を1位、2位に並べておけばそれがなくなるわけです。政党から見れば、法は男女均等にするべく出来る限りの努力を党に求めるわけですから何もしないわけにはいかない、ですから手っ取り早く名簿の1位、2位を全部女性にして法が課している「男女の候補者をできる限り均等となるよう目指して行った」を守った形にするなど―そう出来るのか、どうなのか。
そして、そうした取り組みを公正で正しいあり方として敢えてやる必要があるのか、否か。そこまでの覚悟があるのか、もう少し丁寧な議論が必要だと思う。おそらく歴史の浅い政党や全体主義的な政党はできるでしょう。でも歴史が長くて非常に自由度の高い政党ほど、困難度は高いと思います。
続きは正論5月号でお読みください
■ 山谷えり子氏 聖心女子大学卒業。安倍内閣で国家公安委員会委員長、拉致問題担当相などをつとめた。
■ 有本香氏 東京外国語大学卒業。雑誌編集長などを経て独立。執筆のほか、テレビ、ラジオ等で活躍。