雑誌正論掲載論文

新春ワイド 巨頭たちの謀事 北方領土のミサイルが北海道を狙う…

2017年01月05日 03:00

評論家・拓殖大学客員教授 潮匡人 月刊正論2月号

 二〇一六年十二月十五日、翌十六日の二日間にわたり日ロ首脳会談が開催され、北方領土での共同経済活動を行うための「特別な制度」についての交渉開始などで合意した。安倍晋三総理は共同会見で「平和条約の締結に向けた重要な一歩」と自画自賛したが、翌十七日付朝刊各紙は「領土 進展なし」(朝日、毎日)など批判的に報じる。残された課題を、主に軍事・安全保障面から考察しよう。

 よく「北方四島」と呼ばれる。マスコミはもとより、日本政府もそう表記する(内閣府の公式サイト)。しかし、「歯舞群島、色丹島、国後島及び択捉島」のうち歯舞は「群島」である。一つの島ではない。外務省公式サイトの説明では、七つの島から成る群島とされ、ならば「北方四島」ではなく「北方十島」ということになる。「五つの島から成る群島」と説明する関連機関もある。いずれが正解なのか。それは「島」の定義による。外務省の説明は、国土地理院「平成二十六年全国都道府県市区町村別面積調」に依拠している。その上で「島面積とは、周辺にある一平方キロ未満の小島や岩礁の面積を含まない、本島のみの面積のことである」と注記する。つまり一平方キロ未満の島は、(本)島ではなく「小島(や岩礁)」としてカウントされていない。逆に言えば、それらをカウントすれば、島の数はそのぶん増えていく。

 ならば「島」とは何か。国際法上「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、満潮時においても水面上にあるものをいう」(国連海洋法条約第百二十一条)。ご覧のとおり、島の面積の大小は問うていない。

 要するに「北方四島」という表現自体、一定の主観的な判断を含んでいる。ゆえに政治的な立場から完全に自由ではあり得ない。いわんや、そのうちの「二島」を「先行返還」する等の議論は、その表現そのものが、科学的な客観性からも程遠い。

 政治的にも、「二島先行返還」では「引き分け」(プーチン大統領)と言い難い。右で述べた制約を承知の上で、外務省が示す北方領土の「面積」を比較してみよう。

 歯舞群島は95平方キロで北方領土全体の2%に過ぎない。群島の面積は小笠原諸島に近い。同様に、色丹島が251平方キロで全体の5%となり、隠岐本島の面積に相当する。つまり以上の「二島」で北方領土の面積中わずか7%に過ぎない。「二島返還」すなわち、7対93のスコア結果を「引き分け」と考える日本人は一人もいないのではないだろうか。

 他方、国後島は1490平方キロで全体の30%を占め、その面積は沖縄本島に近い。最大の択捉島に至っては3168平方キロの面積があり、全体の63%を占める。鳥取県の面積に近い。つまり「二島返還」で決着するなら、沖縄本島と鳥取県を合わせた広大な面積がロシア領となる。以上「四島」の合計は5003平方キロとなり、4986平方キロの福岡県を凌駕する。乱暴を承知で現状を分かりやすく例えるなら、こうなろう。

 福岡県が旧敵国に不法占拠されている――。

 一九四五年八月九日、旧ソ連が日ソ中立条約に反し対日参戦。八月二十八日から九月五日までに「北方四島のすべてを占領」した。翌年、「四島」を自国領に「編入」し、四八年までに日本人を強制退去させた。以降、不法占拠が続いている。

 北方領土は「日本固有の領土」である。日本政府はそうした「基本的立場」から「北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」という「基本的方針」に基づいて対露交渉を行ってきた。加えて以下の「基本的立場」も公表している。 「北方領土問題の解決に当たって、我が国としては、北方領土の日本への帰属が確認されるのであれば、実際の返還の時期及び態様については、柔軟に対応する、北方領土に現在居住しているロシア人住民については、その人権、利益及び希望は、北方領土返還後も十分尊重していく」

 以上を踏まえて言えば、今後どこに、どのような線が引かれるのか。それは国境線なのか。もし、そうでないなら、国際法上いかなる性質を持つ線か。そこが最大の問題である。以下、国際安全保障上の論点に絞り考察しよう。

続きは正論2月号でお読みください

■ 潮匡人氏 昭和35(1960)年生まれ。早稲田大学法学部卒業。旧防衛庁・航空自衛隊に入隊。大学院研修(早大法学研究科博士前期課程修了)、航空総隊司令部幕僚などを経て3等空佐で退官。帝京大学准教授などを歴任。近著に『そして誰もマスコミを信じなくなった』(飛鳥新社)。