雑誌正論掲載論文

総力特集 トランプ大統領 日米マスコミが読み間違えた世界の潮流

2016年12月05日 03:00

作家・ジャーナリスト 山村明義 月刊正論1月号

 共和党のドナルド・トランプ新大統領の誕生が決定した瞬間に、アメリカ国内で「崩壊」したものとは何だったのか。それは、一般投票の総得票数で約67万票上回ったヒラリー氏の敗北で、トランプ氏を憎悪する姿勢を露わにした「リベラル勢力」であった。

 民主党のヒラリー・クリントン候補を支援した「リベラル勢力」の人々が、全米各地で「反トランプデモ」や一部では激しい暴動を起こし、「分裂選挙」後の大騒ぎは少なくとも一週間近く続いた。「トランプは私たちの大統領ではない」、「愛は憎しみを超える」などとトランプ氏を批判しながらデモを行う人々は、選挙スローガンを使って「保守主義者」を攻撃の的とした。アメリカ国内の「リベラル陣営」にとっては、トランプ大統領の誕生はまさに「革命」だったわけである。

 アメリカ民主党の「リベラルの崩壊」は、今回と以前の大統領選の一般投票の得票数を見るとわかる。2008年の選挙では、バラク・オバマ大統領が約6950万票獲得し当選したが、その後の12年の選挙では約6592万票、今回「初の女性大統領」を目指したヒラリー・クリントン氏は、約6105万票に終わった。オバマ大統領の在任8年間で、約850万票近くも減らしたことになる。

 一方、共和党は同じく8年間で約5995万票(ジョン・マケイン氏落選)→約6093万票(ミット・ロムニー氏落選)→約6038万票(トランプ氏当選)と、実はさほど変わっていない。要はアメリカ国内の「リベラルが自滅した」ということなのだ。

 リベラルな報道で知られるアメリカのマスメディアは、自ら支持する大統領候補を推すのが慣例だが、今回はアメリカ国内の新聞100紙のうち、「クリントン支持」を表明したのは半数を超える57紙で、「トランプ支持」を表明したのはわずか2紙のみだった。例えば、アメリカの「リベラル」を象徴するニューヨーク・タイムズ紙は選挙後、こう書いた。

 「ニューヨークが現実の世界ではないことに改めて気付かされた」。地方に住む「隠れトランプ派」など、米国民の「怒りの声」にもっと耳を傾けるべきだった―というのである。

 リベラルな報道内容で有名なCNNテレビは、最終日まで「クリントン優勢」の姿勢を崩さず、トランプ氏の勝利が確定的になると、コメンテーターたちは、「一体(我々の)何が間違ったのか」と声を震わせていた。

 今回の選挙中、「アメリカ・ファースト」(アメリカ第一主義)を常に主張する白人のトランプ氏に対して、アメリカのマスメディアが率先して「人種差別主義者」とか「暴言王」と糾弾し、アメリカのエスタブリッシュメントの世界から追い落とそうとした。全米のマスメディアで「ヒラリー支持」のキャンペーンが展開され、彼女の勝利を「確信」していたのだ。選挙戦が終わると、おしなべてリベラル陣営からは「なぜトランプが大統領になるのか」という悲鳴が上がった。

 同時に、日本のマスメディアもそれに追従し、まるでアメリカメディアの「下請け産業」のような報道を行った。現地報道をそのまま「コピペ」するかのように、トランプ氏の発言を単に「失言」とか「暴言」と報じ、一方的に「女性差別問題」や「スキャンダル」を糾弾していた。私自身、日本の多くのマスコミの人間にアメリカ大統領選の予想を聞いたが、「ヒラリーが99%勝つ」などと自信満々に語っていたものである。

 しかし、日本のマスメディアは、二重の意味で間違っていた。間違いの一つは、前述のように「リベラル的な正義」を追求する米メディアに追従したため、選挙戦の分析まで完全に見誤ってしまったこと。もう一つは、最近横行する「ポリティカル・コレクトネス」などアメリカの「リベラル側」の主張と思想だけを鵜呑みにしてしまったことだ。

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■ 山村明義氏 昭和35年、熊本県生まれ。早稲田大学卒業後、金融業界誌を含む出版社などの勤務を経て、平成2年に独立。著書に『神道と日本人』『GHQの日本洗脳』『SEALDsに教えたい戦前戦後史 劣化左翼と共産党』など。