雑誌正論掲載論文
沖縄メディアが報じない 米ヘリパッド反対派の横暴
2016年10月25日 03:00
八重山日報編集長 仲新城誠 月刊正論11月号
沖縄本島の米軍北部訓練場(東村、国頭村)の部分返還に向け、東村高江などでヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)移設工事が7月から本格化した。
米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設は国、県の裁判闘争と和解で現在、工事が中断しており、反基地派は「新たな主戦場」の高江に集結。連日、工事の妨害活動を展開している。県紙「沖縄タイムス」「琉球新報」は、機動隊が抗議する市民を弾圧していると報道しており、全国に波紋を広げている。
沖縄メディアによって、今や安倍政権の「悪逆非道」を象徴する場として全国に発信されてしまった高江を、私は8月末に取材で訪れた。数時間の短い滞在時間だったが、私の眼前で繰り広げられたのは、沖縄メディアの報道とはまるで違った光景だった。
八重山日報の沖縄本島支局がある本島南部の南風原町を午前5時ごろ車で出発し、北部の高江に到着したのは7時ごろだった。真夏の沖縄は、もう日差しが熱くなり始めている。
政府が進める4カ所のヘリパッド建設現場のうち、高江には通称「N1」地区の入口ゲートがある。トラックが建設資材を搬入したり、建設作業員が工事現場に入る際に通過する。
周辺には民間会社の警備員や警察官が多数配置され、交通整理も行われており、この場所が厳戒態勢下にあることが実感された。
ゲート前では、県道70号線を挟んで反基地派のテントが設置され、この日は男女10人ほどが周辺の様子をうかがっていた。高齢者と呼んでいい世代が多い。突然の乱入者である私に露骨な警戒の視線を向け、カメラで撮影を始める者もいた。
帽子とサングラスで顔を覆った60~70代とおぼしき女性がテントから出てきて「どこの方ですか」と尋ねてきた。私が「八重山日報の記者です。石垣市から取材に来ました」と答えると「ちゃんと会 社の腕章を着けてください」とたしなめられた。まるで周辺を取り仕切っているようだ。
女性は、私が石垣市から来たことに関心を持ったらしく「石垣市も、いずれ自衛隊が配備される。あんな市長を選んだから」と、唐突に防衛省が進める自衛隊配備計画を持ち出した。
私は3年ほど前、辺野古の米軍キャンプ・シュワブ前で移設工事の反対運動を取材したことがある。この時も反基地派が「中山義隆市長は安倍首相の犬だ」などと叫んでいた。保守派で知られ、現在は全国青年市長会の会長でもある中山市長は、沖縄本島の反基地派からは憎悪の的にされているようだ。
対話するいい機会だと感じた私は、女性に質問した。
「ヘリパッド工事が完成すれば、北部訓練場の半分の土地が米軍から返還されますよね。県民の基地負担軽減につながりませんか」
すると、女性は眉を吊り上げて怒り始めた。
「土地を返すんじゃない。要らなくなった施設を放り出すんです。捨てるだけです。それに、土地はもともと沖縄のもの。返すのは当たり前です。あなた、記者だったらちゃんと勉強しなさい」
米軍北部訓練場は約8000㌶あり、1996年、日米が約4000㌶の土地を日本側に返還することで合意した。72年の沖縄復帰後、最大規模の米軍用地の返還だという。返還区域にある6カ所のヘリパッドを非返還区域に移設することがその条件となっており、既に2カ所が完成している。政府は残る4カ所の完成を急いでいるのだ。
ヘリパッドの建設工事が県民の基地負担軽減にならないのであれば、何のための工事なのか。女性に質問すると「もちろん戦争準備です」という答えが返ってきた。
私は話題を変え、尖閣諸島問題をどう思うか女性に聞いてみた。尖閣諸島は石垣市の行政区域である。せっかく石垣市から来ている以上、この質問をぶつけずに帰るわけにはいかない。
女性は「日本が軍事的に尖閣に出ていくから、中国はメンツをつぶされて軍艦を派遣したんです。尖閣は無人島で、基地を造ることは不可能。中国には、あんなところを占領するお金もありません。日本が煽り立てるからいけない」とまくし立て、「記者なのに、何も勉強していないんですか」とまた同じセリフで睨みつけてきた。
私は多少たじろぎながら「でも、現に中国は尖閣を奪おうとしていますよね。どうすればいいと思いますか」と反問した。
女性は「政府には『交渉しろ』と言いたい」と即答。「尖閣問題がこうなったのは、なぜか分かりますか。石原慎太郎(元都知事)が尖閣を購入すると言い出したせいです」と主張した。
尖閣問題が先鋭化したきっかけは、石原氏の尖閣購入発言ではなく、中国の野心だ。この女性は、本人にその気はないのだろうが、中国の代弁者そのものである。
反基地派にとって最大の関心事は、県民の基地負担軽減でも、国境の安全保障でもない。高江、辺野古の「抵抗」とは、純然たるイデオロギー闘争だと改めて感じた。
私と女性が話している時、反基地派は県道70号線に多数の車両を停め、工事車両の通行を妨害していた。排除しようとする機動隊ともみ合いになっていたが、ゲート前からは距離が遠過ぎ、私は騒動には気づかなかった。
ゲート前には、建設会社の作業員たちが十数人やって来た。すると反基地派は「人を殺しに来たのか」などと口々に罵声を浴びせ始めた。作業員の1人が「仕事をしに来た」と言い返し、にわかに緊張感が高まった。
反基地派は、警備のため各都道府県から派遣されている警察官たちにも絡み始めた。「どこから来た」「名前を名乗れ」などと詰め寄ったり、顔の近くにカメラのレンズを寄せたりした。警察官たちは、表情を殺して無視した。
妨害車両が排除され、資材を積んだトラックがゲート前に姿を現した。すると警察官たちは、反基地派が道路に飛び出さないよう、一列に並んでガードを固めた。少し離れた場所でも、プラカードを掲げた反基地派の女性が興奮した様子で車道に駈け出そうとしており、数人の警察官が必死で押しとどめていた。
高江では、罵詈雑言で挑発しているのは反基地派であり、耐え忍んでいるのは警察官や民間の警備員たちだった。しかも警察官たちは、無謀な抗議行動で怪我人が出ないよう、周辺の秩序維持に慎重に気を配っていた。反基地派の「弾圧者」ではなく「保護者」だったのだ。
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■ 仲新城誠氏 昭和48(1973)年、沖縄県石垣市生まれ。琉球大学卒業後、平成11年に石垣島を拠点とする「八重山日報」に入社、22年から同紙編集長。著書に本連載をまとめた『翁長知事と沖縄メディア「反日・親中」タッグの暴走』(産経新聞出版)など。