雑誌正論掲載論文
それでも蓮舫代表を選んだ民進党の行く道は…
2016年10月05日 03:00
評論家・拓殖大学客員教授 潮匡人 月刊正論11月号
これで民進党は消滅への坂道を転げ落ちていく。離党者を出したり、分裂騒動を繰り広げたりしながら自壊していくのであろう。そうでなければ、おかしい。
九月十五日、民進党代表選の投開票が行われ、蓮舫候補が新代表に選出された。圧勝と言ってよい。その直前、前原誠司候補が「(党内の)雰囲気が変わってきた」と語ったが、結局なんら変化は起きなかった。
「富士山から飛び降りる覚悟」(蓮舫)という意味不明の出馬表明で始まった茶番劇は既定路線のまま終わった。念のため言えば「崖から飛び降りる覚悟」(小池百合子)と違い、富士山からは飛び降りられない。
代表選に際し、八幡和郎教授(徳島文理大学)や池田信夫博士(アゴラ研究所長)が、蓮舫の二重国籍問題をインターネット上で指摘した。活字でも「夕刊フジ」や産経新聞が大きく報じた。選挙中「台湾籍は有していない」「生まれたときから日本人」と否定していた蓮舫だが、地方議員や党員・サポーターの投票締め切りを過ぎた九月十三日、ようやくこう認めた。
「十七歳で日本国籍を取得したとき、父と一緒に台湾籍を抜いた認識でいたが、台湾当局に確認したところ、籍が残っていた」「私の記憶の不正確さによって、さまざまな混乱を招いたこと、発言の一貫性がなかったことにおわびを申し上げたい」
マスコミは「謝罪」や「陳謝」と報じたが、釈明の間、蓮舫から冷たい微笑みが絶えることはなかった。なかなか度胸が据わっている。生まれながらの〝政治家〟かもしれない。
他方、旧民主党政権失敗の「戦犯」を自認し、謝罪や陳謝を繰り返した前原候補。九月七日の候補者集会で、玉木雄一郎候補が涙ぐみながら、こう訴えた。 「前原さんには謝ってもらいたくない」
その場で蓮舫が「玉木君、男が泣くな」と一喝。一人が謝り、もう一人が泣く横で、唯一の女性候補が〝男らしさ〟を見せた。代表選を見据え、都知事の椅子を蹴っただけのことはある。新代表となるや、党内の期待とマスコミの予想を覆し、幹事長に野田佳彦(前総理)を起用した。さすが〝政治家〟である。
いや、茶化している場合ではない。名物コラム「阿比留瑠比の極言御免」(九月十五日付産経朝刊)を借りよう。
《産経新聞が疑問点を指摘しても「意味が分からない」と逃げてきた。/民進党議員らは、そんないい加減な人物が、政権交代があれば首相となり得る野党第一党代表の座に就くことに、何の疑問も感じないのか。だとすれば背筋が寒くなる》
まさに背筋が寒くなる結果となった。原因は「蓮舫新執行部での主流派入りやポスト獲得を念頭に、国会議員の過半数が支持する構図」であろう(同日付産経朝刊)。天下国家より自己保身が大事。なんとも度し難い。
その点に限れば「本当につまらない男」(蓮舫)と酷評された岡田克也(前代表)は例外に当たる。岡田は代表選前から「蓮舫代表代行の考え方やリーダーとしての能力は、よくわかっているつもりだ。彼女がいたから、私も次の代表選に出ないと決心できた」、「発信力、ディベート力、演説なども含めて、いろいろなものが備わっている。後の二人も立派な候補者だが、私は、蓮舫さんが最も次の民進党の代表としてふさわしいと思う」と後継指名していた。二重国籍問題についても九月八日こう擁護した。
「お父さんが台湾の人だから、何かおかしいかのような発想が一連の騒ぎの中にあるとすると、極めて不健全なことだ。多様な価値観を認める、わが党が目指す方向とはまったく異なる」
岡田前代表と二人三脚を組んだ日本共産党も同じ見解に立つ。蓮舫新代表選出を受けた九月十五日の記者会見で志位和夫委員長は「本人も反省の弁を述べており、それ以上、私が言うことはない」と擁護した。九月十二日には、小池晃書記局長が会見で「三回の参院選で国民の信任を得て、公人として仕事をしている。どこに問題があるのか」と擁護。加えて「父親が外国籍との理由で排除するのは極めて差別的だ」とも語った。しかし、差別的なのはどちらだろうか。再び前掲コラムの言葉を借りよう。
「正当な指摘や批判を、まるで他民族やマイノリティーへの差別であるかのようにすり替えるやり方は、本当に差別に苦しむ人々を軽んじ、利用するかのようでいただけない」
右の批判は民進、共産両党に加え、蓮舫を擁護したマスコミ報道にも当てはまる。たとえば九月七日放送のTBS「Nスタ」が露骨だった。投開票前夜に生放送されたBSフジ「プライムニュース」も例外でない(九月十四日)。 番組で前原は「ご本人が説明すべきこと」と言葉少なくコメントしたが、玉木は「違法性はない」、「多様性を重視すべきだ」と蓮舫を擁護した上、返す刀で、問題の指摘を「ヘイトスピーチ」と批判した。
当の蓮舫も「違法性はない」と明言。説明が二転三転した経緯を「私はずっと日本人だと認識していました。他方でダブルのルーツを大事にしてきました」。台湾籍と語った過去の雑誌記事等を「(台湾籍)だったという言い方をした」、「私に編集権はない」と釈明。責任を当該編集部に転嫁した。
この間、笑顔を絶やさず、強弁を繰り返した。反町理MCから「アウトかセーフかと言えば、アウトではないと我々も理解しています」と〝お墨付き〟をもらい、明るく「多様なバックグランドを持った私にしかできないことを」訴え、幕引きとなった。
日本の国籍法上「外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなった時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない」(第十四条)。「選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない」(第十六条)。二重国籍は以上に違反する。その違法性は明らかではないか。
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■ 潮匡人氏 昭和35(1960)年生まれ。早稲田大学法学部卒業。旧防衛庁・航空自衛隊に入隊。大学院研修(早大法学研究科博士前期課程修了)、航空総隊司令部幕僚、長官官房勤務などを経て3等空佐で退官。帝京大学准教授などを歴任。『日本人が知らない安全保障学』(中公新書ラクレ)など著書多数。最新刊は『そして誰もマスコミを信じなくなった』(飛鳥新社)。