雑誌正論掲載論文

中国は世界をナメている ガラクタばかりの「南京」記憶遺産資料

2015年12月30日 03:00

拓殖大学客員教授 藤岡信勝 月刊正論1月号

 中国が申請したユネスコ(国連教育科学文化機関)記憶遺産の登録への経過は、全く不透明であり、不公正の極みである。

 まず、中国側の申請内容が分からない。登録を求めている資料自体が公開されていない。当事国の日本がそれを見ることができない。従って、内容に即して批判することもできない。こんな不公正なことはない。これが「国連」という国際機関の、「教育」と「科学」と「文化」を冠称する組織がやっていることだとは信じがたい。

 日本の外務省は、中国政府に対し、申請への抗議とその撤回の要求を五回、提出資料の全面公開と専門家の受け入れの要求を八回行ったそうである。これらはことごとく無視されたようだ。ついでに言うと、外務省はパリのユネスコ本部にも、実に十五回の申し入れを行ったが、これも結局、無視されたことになる。

 これを知って、「外務省も結構よくやっているではないか」と見る向きもあるかもしれない。しかし、見方を変えれば、日本は国際舞台でこれほどソデにされ、無視されていることになる。日本人は世界一押しの弱い国民だそうだが、それにしても子供の使いではあるまいし、いくら何でもこれは酷すぎる。

 中国政府は国をあげて登録実現に向けたロビー活動を展開した。日本政府だって早くから公然と取り組みの経過を公表すべきであった。そうすれば状況は変わっていたかもしれない。私には合理的根拠のない外務省の秘密主義の理由は、責任逃れと保身の為としか思えない。

 さて、十月上旬に登録が決まったわけだが、では、文書の実物はいつ公開されるのか。それもわからないのである。一説によれば十一月中と言うし、ずっと先だろうという説もある。

 登録決定直後に、中国政府系の通信社である新華社通信は、世界記憶遺産に登録された「南京大虐殺に関する資料」を次の十一項目であると公表した。

① 国際安全区の金陵女子文理学院の宿舎管理員、程瑞芳の日記

② 米国人のジョン・マギー牧師の16ミリ撮影機とそのオリジナルフィルム

③ 南京市民の羅瑾が死の危険を冒して保存した、旧日本軍撮影の民間人虐殺や女性へのいたずら、強姦の写真16枚

④ 中国人、呉旋が南京臨時(政府)参議院宛てに送った旧日本軍の暴行写真

⑤ 南京軍事法廷が日本軍の戦犯・谷寿夫に下した判決文の正本

⑥ 南京軍事法廷での米国人、ベイツの証言

⑦ 南京大虐殺の生存者、陸李秀英の証言

⑧ 南京市臨時(政府)参議院の南京大虐殺案件における敵の犯罪行為調査委員会の調査表

⑨ 南京軍事法廷が調査した犯罪の証拠

⑩ 南京大虐殺の案件に対する市民の上申書

⑪ 外国人日記「南京占領―目撃者の記述」

(毎日新聞十月十一日付より)

 これだけで実際に中国が申請した文書の中身が完全に分かるわけではない。ただ、右のリストの中の多くは、日本でもすでによく知られている資料であるから、おそらくこれであろうという推測が可能である。

 そこで、実際に、正式に登録される資料がわかるまでのつなぎとして、右の十一項目の資料を解説し、「南京大虐殺30万」の資料として登録される資格がないことを明らかにしたい。なお、その際、幸福実現党が独自に入手したとされる資料へのコメントを参考にした。こうした資料の入手は、本来一般のジャーナリストがやるべきことである。ジャーナリズムの衰退も著しい。

 なお、右の十一項目のうち、①については、本誌『正論』十二月号に書いたので省略し、紙幅の関係で、⑨と⑩も別の機会にする。

 ②は、「米国人のジョン・マギー牧師の16ミリ撮影機とそのオリジナルフィルム」である。

 マギーはアメリカ聖公会伝道団の宣教師で、一九一二年から一九四○年まで南京に滞在した。南京陥落時にその様子を16ミリフィルムに撮影した。動画のフィルムから静止画に焼かれた写真は、アイリス・チャンの『ザ・レイプ・オブ・南京』など各種の書籍に頻繁に引用・掲載されているので、よく知られているものである。

「マギー・フィルム」の正体については、東中野修道他著『南京事件「証拠写真」を検証する』(二○○五年、草思社)が詳細な分析を加えている。

 米国国立公文書館の所蔵する「マギー・フィルム」は、39の光景からなっている11分30秒ほどの動画である。しかし、南京陥落後の光景のほとんどは、戦傷者と病院の場面だ。戦争だから負傷者が出るのは当然で、だからどうしたというのか。病院での負傷者の治療風景を映したからといって、それは何ら「虐殺」の証拠になるものではない。

「マギー・フィルム」とよばれるものには二種類あって、オリジナルのフィルムに字幕をつけて加工したものがある。字幕を書いたのは、『戦争とは何か』というプロパガンダ本を書いたハロルド・ティンパーリ記者だった。字幕の文字情報でフィルムの動画を観る者を誘導するようにしたのだ。

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■ 藤岡信勝氏 昭和18(1943)年、北海道生まれ。北海道大学教育学部卒。東京大学教授などを経て現職。平成7年、自由主義史観研究会を組織、「新しい歴史教科書をつくる会」元会長。著書・共著に『教科書が教えない歴史』(扶桑社)、『汚辱の近現代史』(徳間書店)、『国難の日本史』(ビジネス社)など多数。