雑誌正論掲載論文

「女性が輝く社会」に隠された嘘

2015年11月15日 03:00

 評論家 小浜逸郎 月刊正論12月号

 これから書くことは、安倍政権の女性政策に対する批判であり、同時に、世間で当然と思われている考え方に対する異議申し立てです。その考え方とは、女性が社会に出て労働者として働くことは無条件によいことだというものです。

 まず言っておくと、さまざまな女性を「女性」という抽象的な言葉で一括りにして、だれが、人生のどんな時期に、どういう条件下で働くのがよいのかを一切問おうとしないところに、この考え方の最大のまやかしがあります。ここには、男女共同参画社会などの美名のもとに仕組まれた巧妙なトリックがあるのですが、女性差別はけしからんという一見だれも逆らえない現代の大原則のために、ほとんどの人がそのトリックを見抜けません。

 この原則の前では、女性政策やそれを支える世間の考え方に違和感を感じた男たちがいても、逆襲を恐れて口をつぐんでしまいます。安倍政権の「すべての女性が輝く政策パッケージ」なるものも、当然、このトリックを存分に利用しているのです。

 ちなみに誤解を受けないようあらかじめことわっておきますが、私は、女性が社会で働くことそのものを否定するような保守反動オヤジではありません。むしろ、できるだけ多くの女性が幸せな人生を送ってほしいことを切に願う、真の意味の「フェミニスト」なのです。そのことは、以下の文章をきちんと読んでいただければ、必ずわかってもらえると思います。

 まず、このグラフを見てください。これは、子どもを抱えた25歳から44歳までの女性の就業率を都道府県別に表したもので、総務省の「平成24年就業構造基本調査」に掲載されています。

(http://www.stat.go.jp/data/shugyou/topics/pdf/topics74.pdf)

 一見して明らかなように、山陰、北陸、東北などの人口の少ない農村部で高く、首都圏、関西圏、政令指定都市のある県など、大都市を抱えた地域では低くなっています。これについて、総務省自身は、格別のコメントを記していませんが、民間のサイトであるまぐ2ニュース「働くお母さんが多い都道府県第1位は島根県。上位は日本海側に集中」には、次のように書かれています。

(http://www.mag2.com/p/news/16593)

就業率ワースト12都道府県
1位 神奈川県 2位 兵庫県
3位 埼玉県 4位 千葉県
5位 大阪府 6位 奈良県
7位 北海道 8位 東京都
9位 滋賀県 10位 山口県
11位 愛知県 12位 京都府

 就業率上位は島根県など、日本海側に集中。

 育児をしている女性の就業率1位は島根県、それに続くのは山形県、福井県、鳥取県、富山県と日本海側の県が目立った。就業率下位は、都市部から周辺のベッドタウンとして栄える地域が目立つ。都市部よりも地方、特に日本海側の地域で就業率が高い点について、47求人.comでは「3世代世帯の多さ」と比例することが要因のひとつとみている。

 47求人.com調査によると、3世代同居率が高い都道府県ランキング(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」)でも、上位の山形県、福井県、鳥取県、富山県がトップ5にランクイン(島根県は13位)。3世代で暮らしている方が、子育てをしている女性が働きやすいという子育て環境の地域差がうかがえる。

 さてこれを読んで、腑に落ちない感じを抱かれた方はいないでしょうか。

 まず、女性就業率の低い順に並べたランキングを、「ワースト12」とは何事でしょうか。なぜ家庭の外で働く女性の少ない県が「ワースト」なのか。ここには、これを書いた記者(「まぐまぐ編集部・まつこ)とあります」のフェミニズム的な偏見が露骨に出ています。

 別にこの記者に対して、個人的な非難を浴びせるつもりはありません。しかしこうした受けとめ方が、相当幅広く(特に知的な女性の階層に)行き渡っていることは確かだと思います。非就業者の中には、幼い子の育児に専念することを最重要と考える女性、生活に余裕があるので、わざわざ稼ぐ必要を感じない女性、家庭での役割を大切にしたいと考える女性、社会の仕事に就くことに向いていないと感じている女性など、さまざまな女性が含まれているはずです。

 就業率が低いことを「悪い」とみなす人は、そうした多様な生き方を否定していることになります。この単純な決めつけは、たとえば、元社民党党首の福島瑞穂氏などのように、出産・育児期にも女性は必ず働くべきで、そのために行政に対してもっぱら保育施設の充実を訴えていくという政治的立場と同じです。

続きは正論12月号でお読みください

■ 小浜逸郎氏 昭和22(1947)年、横浜市に生まれる。横浜国立大学工学部卒業。家族論、思想、哲学など幅広く批評活動を展開する。国士舘大学客員教授。著書に『弱者とは誰か』『やっぱり、人はわかりあえない』(いずれもPHP新書)、『日本の七大思想家』(幻冬舎新書)など多数。