雑誌正論掲載論文

世はこともなし? 第117回 思えば思わるる

2015年02月25日 03:00

コラムニスト・元産経新聞論説委員 石井英夫 月刊正論3月号

 この元日から、福岡ソフトバンクホークス会長の王貞治さん(74)が「私の履歴書」を日経に連載している。その2日目を読んで、妙なところに心を打たれた。

 父・王仕福さんの人となりと、「中華五十番」を始めたくだりである。仕福さんは中国・浙江省青田県という地方の山村で生まれた。明治の時代で、川の対岸に渡るも橋がなく、病気になってもかかる医者がいない。そんな寒村から出稼ぎのため来日し、東京の向島あたりは浙江省の人間が多いというだけの理由で墨田区の下町に落ちついた。

 はじめは工場に勤めたが、いつしか料理を覚え、富山県出身の母・登美さんとラーメン店「中華五十番」を開いたという。

 息子貞治は何事にも妥協を許さない父を見て育ったが、「五十番の料理がうまかったかどうかはわからない。ただいえるのは『日本に来て、日本に生かされている』との父の思いがあったということだ」と書いているのだった。

 閉店してコークスの火を落としたあとでも、近所の人が「何か食わせてよ」と戸をたたけば、火をおこし、1杯のラーメンをこしらえた。町に溶けこもうとする気持ちが「五十番」の味だった。そういう近所付き合いのおかげで、中国人の子どもだといっていじめられたことは一度もなかったという。

 ここで私が書きたかったのは五十番の味のことではない。「日本に来て、日本に生かされている」と思ったという父・仕福さんの心のことである。郷に入れば郷に従え。「ほんに思えば思わるるでござんす」は『三人吉三』のせりふだったが、そういう仕福さんの感慨と礼節の心がけがあったからこそ、息子がいじめられることもなかったのだろう。

 われながら妙だが、そのことに感動してしまったのだった。それが人と人、国と国との相互理解の原点であり、基本であることは、洋の東西や時代の今昔を問うまいと思ったからである。

 しかし逆もまた真なり。不快感や嫌悪感も以心伝心、あっさりと伝わっていく。

 旧臘20日のこと、内閣府が外交に関する世論調査を公表した。それによると、中国に対する「親しみを感じない」との回答は83・1%、韓国に対しては66・4%となり、昭和53年の調査開始以来、いずれも最高となった。中国に対して「親しみを感ずる」は14・8%で、過去最低を更新したというのである。

 快なる哉。老蛙生は不謹慎にも腹の中でニンマリした。さもありなん、と喝采したのである。中韓両国はこれまで朝日新聞の虚報におどらされてきただろうが、朝日が全面降伏したいまこそ、日本人の真の心情を知るがいい。中国離れ、韓国離れがここまで進み、「もうつきあいたくないよ」と後ろを向いていることを中韓の政治指導者は認識すべきなのだ。

続きは正論3月号でお読みください

■ コラムニスト・元産經新聞論説委員 石井英夫 昭和8年(1933)神奈川県生まれ。30年早稲田大学政経学部卒、産経新聞社入社。44年から「産経抄」を担当、平成16年12月まで書き続ける。日本記者クラブ賞、菊池寛賞受賞。主著に『コラムばか一代』『日本人の忘れもの』(産経新聞社)、『産経抄それから三年』(文藝春秋)など。