雑誌正論掲載論文

世はこともなし? 第109回 仮面の女神

2014年06月25日 03:00

コラムニスト・元産経新聞論説委員 石井英夫 月刊正論7月号

 3月末のある朝、長野県伊那市の知人・池田健二さんから電話がかかってきた。正確に書けば3月19日である。知人といっても池田さんは、茅野市で一度だけ会ったことのある産経抄の元読者だった。

「覚えてますか。石井さんがコラムで書いた中っ原遺跡の〝仮面の女神〟。あれがついに国宝に指定されましたよ。けさの新聞にでてます。地元の新聞送りますよ」

 寝ぼけまなこで朝刊をひらくと、在京各紙にも「土偶『仮面の女神』国宝に」という記事が写真入りででていた。4段抜きの新聞もある。

 思い起こせば平成13年に所用で茅野市に行き、帰途、尖石縄文考古館に立ち寄った。その1年前、中っ原遺跡から出土したと報じられた女性の仮面土偶を見たかったからである。

 尖石縄文考古館は八ヶ岳西南の山ろく、標高千メートルのシラカバ林の中にあった。そこでご対面したのだが、高さ34センチの大型の土偶で、ワギナ(性器)がついているから明らかな女性である。まこと奇妙なことに、顔に逆三角形の仮面がついていた。

 胴と腕に丁寧な文様がほどこされ、妊娠を示すかのように下腹が張り出ていた。そのあでやかな造形美が評価されて、国の文化審議会が国宝に答申したのはめでたい限りだが、土偶はなぜ仮面をつけていたのか。奇怪なペルソナ(仮面)は何を意味しているのか。

 それがまたまた妄想とロマンを誘ってくれたのだった。

 三島由紀夫の出世作『仮面の告白』は、天才作家24歳の書き下ろし長編で、その書きだしは有名だ。

「永いあいだ、私は自分が生まれたときの光景を見たことがあると言い張っていた」

 産湯に使われたタライの木肌や木目や、水にゆらゆら反射する光のゆらめきなどを覚えている、と言い張ったというのだった。この三島の人と文学を「憑かれた者の逃れ難い宿命」や「一種物狂いにも似たロマン主義の放恣」と解説したのは評論家佐伯彰一だが、ここで申しわけないことに、憑かれた嫌ーな人物をひとり連想してしまった。

 隣国の大統領朴槿恵女史である。

 3月25日、オバマ米大統領がとりもって日米韓の首脳会談が実現した。その席上、安倍首相がわざわざ韓国語で朴大統領にあいさつしたのだが、彼女はどう対応したか。返事をするどころか、視線も合わさず、能面のような無表情を変えなかった。人間として無礼千万な態度をとりつづけたのだった。

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■ コラムニスト・元産經新聞論説委員 石井英夫 昭和8年(1933)神奈川県生まれ。30年早稲田大学政経学部卒、産経新聞社入社。44年から「産経抄」を担当、平成16年12月まで書き続ける。日本記者クラブ賞、菊池寛賞受賞。主著に『コラムばか一代』『日本人の忘れもの』(産経新聞社)、『産経抄それから三年』(文藝春秋)など。