雑誌正論掲載論文

あやうい集団的自衛権容認の行方

2014年06月05日 03:00

評論家・拓殖大学客員教授 潮匡人 月刊正論7月号

最低最悪の東京新聞ヘッドライン

 5月15日、安倍晋三総理は官邸で、第7回となった「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)を開催。そこで提出された報告書を受け、同日午後6時、会見に臨み、「政府として検討に当たっての基本的方向性」を示した。

 以上の経緯を同夜、NHKは「集団的自衛権 報告書」「集団的自衛権 会見」とテロップで表示して報道。連日、安倍政権に批判的な陣営のコメントを大量に流した。翌16日付の毎日新聞朝刊1面は「集団的自衛権 容認を指示」とのヘッドラインを掲げ、「これでは筋が通らぬ」と題した末次省三政治部長の署名論説を掲載。コラム「余禄」も「憲法という政府への縛りが意味を失う」と批判した。社説でも「集団的自衛権 根拠なき憲法の破壊だ」と非難した。

 案の定、同日付朝日新聞朝刊も紙面を挙げて同様の批判を展開した。1面トップ記事のリード文は「憲法の根幹を一内閣の判断で変えるという重大な問題をはらむ」と締めた。「最後の歯止め、外すのか」と題した政治部長の署名も掲載。コラム天声人語も「立憲主義はすたれる」と批判した。加えて2面に「もつれた糸 引きちぎる暴走」と題した石川健治・東大教授のインタビューを、3面に「自己愛に偏した歴史認識」と題した五百旗頭真・熊本県立大理事長(元防衛大校長)のインタビュー記事を掲載。社説でも「立憲主義からの逸脱である」と定番の批判を奏でた。

 単なる無知か、意図的なミスリードかは知らないが、事実は違う。今後、解釈変更が閣議決定されても、国会で根拠法が整備されなければ、たとえ限定的であろうと集団的自衛権を行使できない。さらに言えば、根拠法が成立しても、裁判所の違憲判決が確定すれば法的に無効となる。わが国において「最後の歯止め」は政府の解釈ではなく最高裁判所である(憲法第81条)。

 朝日の東京本社発行13版の1面トップ記事では、見出しが「専守防衛、大きく転換」となっていたが、これも違う。個別的であれ集団的であれ、自衛権は「武力攻撃が発生した場合」と訳されている要件を満たさない限り行使できない(先月号拙稿参照)。従って、仮に集団的自衛権を「全面容認」しても、専守防衛はなんら転換されない。先月号に重ねて言う。朝日よ、一から出直してほしい。

 立憲主義を重視するのは結構だが、そうした主張の当否以前に、報道機関としての適格性が問われる。「容認を指示」と題した毎日トップ記事はリード文で「自民、公明両党に協議を指示」と明記したが、なぜ、自民党の総裁(安倍総理)が公明党に「指示」できるのか。5月18日放送のTBS「時事放談」はこの毎日1面を掲げた。系列ゆえの措置なのだろうが頂けない。番組ゲストの武村正義氏(元内閣官房長官)が「ご都合主義」「解釈改憲」等々と批判したが、前提の事実関係からして間違っている。

 ちなみに安保法制懇も、総理会見も、集団的自衛権に関し「容認」という言葉は使っていない。マスコミが勝手にそう命名している。あえて「容認」という言葉を使って見出しを立てるなら、「限定容認へ協議」とのヘッドラインを掲げた読売新聞が最も的確である(5月16日付朝刊一面)。

 他方、最低最悪は、東京新聞(中日新聞)のヘッドライン「『戦地に国民』へ道」(同前)。リード文でも「容認は海外の戦場に国民を向かわせることにつながる」としたが、意味が分からない。あえて訂正するなら、「『戦地の国民保護・救出』へ道」とでもなろう。およそ論評に値しないので反論は割愛する。

 そもそも護憲派マスコミはジャーナリズムに値しない。総理会見の質疑応答は幹事社による記者クラブの劣化を露見させた。当日の幹事社は東京新聞。城島記者がこう述べた。

「歴代政権が踏襲してきた憲法解釈を一政権の判断で変更するとしたら、憲法が政府の政策を制限する立憲主義の否定ではないでしょうか。政権が自由に憲法解釈を変更しても問題ないとお考えですか(以下略)」

 これが報道機関のすべき質問なのか。単に意見を述べたに過ぎない。こういう連中が記事を書くから「『戦地に国民』へ道」といった素っ頓狂な報道になる。もう一つの幹事社は共同通信。内海記者が「安保法制懇には人選に偏りがあり、中立性を欠くという指摘もあります」と質問(?)した。

NHKのセンスを疑う

 他方、読売新聞の川上記者は「今後どのようなスケジュール感で論議を深めていくか」を問うた。ダウジョーンズの関口記者は、緊迫化する南シナ海情勢に触れ「この地域での日本の役割や貢献がどう変化するとお考えでしょうか」と聞いた。いずれも質すべき問いであろう。案の定、読売新聞の報道は、東京新聞とは対照的だった。

 その他、全マスコミが以上の経緯を「集団的自衛権」と報じている。NHKも「集団的自衛権 報告書」「集団的自衛権 会見」と報じたが、それはおかしい。5月16日放送のNHKスペシャルは「集団的自衛権を問う」。そもそもなぜ、このタイトルなのか。

「専門家」として出演したのは「行使容認不要」論者の中野晃一教授(上智大)。放送中、質問に答えられず「安全保障の専門家ではない」と釈明した。ならば出演するな。NHKも出すな。最低でも「専門家」との紹介は訂正してほしい。専門知識がないから、礒崎陽輔総理補佐官に論破された自覚すら持てず、左派定番の護憲論を繰り返した。特定秘密保護法批判や靖国参拝批判まで繰り広げた。前夜にパネルを使って熱弁した総理会見を「紙芝居」と揶揄。「安倍さんは鈍感」、解釈変更を「裏口入学」と誹謗した。しょせん素人の印象論なので反論は割愛する。

 司会者の城本勝解説委員も素人の域を出ない。事実、彼の不正確な発言を、北岡伸一座長代理(安保法制懇)が訂正する展開となった。解説委員にしてこのレベル。NHKの知的水準が窺える。ちなみに彼は5月6日放送の「大人ドリルSP 今さら聞けない…集団的自衛権のいろは」でも、不正確ないし偏向した「解説」を並べ立てた。そもそも司会者としての適格性(中立公正)を欠く。

 いや、それ以前の問題として、総理会見の翌日に「集団的自衛権を問う」番組を企画したNHKのセンスを疑う。北岡氏も「メディアが集団的自衛権ばかり取り上げる」と批判し「非常な違和感」を表明。司会者と緊張したやり取りになった。

 もちろん北岡氏が正しい。なぜなら提出されたのは、名実とも《「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書》である。問われるべきは「安全保障の法的基盤の再構築」であり、なにも集団的自衛権に限らない。事実、最後の懇談会で提出された「報告書のポイント」が挙げた項目は以下のとおり。

 ①集団的自衛権、②軍事的措置を伴う国連の集団安全保障措置、③PKO 在外自国民の保護・救出 国際治安協力、④武力攻撃に至らない侵害への対応(番号は潮が追記)

 集団的自衛権は四大ポイントの一つに過ぎない。にもかかわらず、護憲派マスコミは、集団的自衛権だけ報道し、批判する。名実ともポイントを外している。

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■ 潮匡人氏 昭和35(1960)年生まれ。早稲田大学法学部卒。旧防衛庁・航空自衛隊に入隊。大学院研修(早大院法学研究科博士前期課程修了)、長官官房などを経て3等空佐で退官。帝京大学准教授などを歴任。東海大学海洋学部非常勤講師。『日本人が知らない安全保障学』(中公新書ラクレ)など著書多数。