雑誌正論掲載論文

世はこともなし? 第82回 笑うしかない話

2012年03月27日 03:00

コラムニスト・元産経新聞論説委員 石井英夫

 敬愛する徳岡孝夫氏が中野翠氏と共著で『泣ける話、笑える話』(文春新書)という本をだした。お二人の人生のなかで、触れ合った悲喜こもごもを滋味いっぱいのエッセーにまとめている。

 その驥尾に付していうと、なるほどこの世に笑える話というか、笑うしかない話は探せばある。というよりちょくちょく目にし、耳にする。世はこともなし、笑うしかないことだけを考えていけば幸せに死んで行けるだろう。

 最近でいけば、北朝鮮で絶対権力を振るった金正日が死に、三男金正恩が跡継ぎに登場したが、その襲名口上が笑わせた。

 この年端も行かぬ若造(最近の報道でようやく生年月日が1984年1月8日に統一された。つまり現在28歳)は、いかなる人物か。朝鮮労働党中央が発表した口上はこうだった。

 金正恩は幼少時からずばぬけた天才児だった。3歳にして射撃の名手で、20発撃った弾をすべて的の中心に命中させた。5歳の時、本物の車の運転もお手のもので、平壌から元山まで(距離は約200キロ)を運転、随行員たちとカーチェイスをして勝った。

 最近テレビ放送されたドキュメンタリーでは、16歳で非凡な論文を執筆した、と父・金正日の証言を紹介している。

 大学時代は3、4時間しか眠らず、父のあとを継ぐため膨大な知識を身につけた。2年間の海外留学中に、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語を習得し、それでも飽き足らず、帰国してから中国語、日本語、ロシア語も勉強した。もちろん白馬にも乗れるし、戦車も動かせる……。

 以上は龍谷大学教授・李相哲氏が『諸君!』緊急復刊号で書いた「金正恩よ、お前は何者か」から引かせてもらった。

 ご苦労なのは朝鮮労働党中央の面々である。それこそ三日三晩寝ずに、とぼしい想像力と構想力を振り絞ってでっち上げた作文だ。きっと日本の聖徳太子の遺徳をはじめ、世界の偉人たちの伝記を総ざらいしたことだろう。一体、こんな若くて偉大な指導者がどこにいる? 笑わずにはいられなかった。

 日本の国会風景でも、思わず笑ってしまう情景にしばしば遭遇する。

 田中直紀防衛相のあわてふためくさまはその一つである。1月末から2月初めの衆参予算委員会で、野党の集中砲火を浴びた田中氏の迷走ぶりは、見られたものではなかった。続きは月刊正論4月号でお読みください

 ■石井英男 昭和8年(1933)神奈川県生まれ。30年早稲田大学政経学部卒、産経新聞社入社。44年から『産経抄』を担当、平成16年12月まで書き続ける。日本記者クラブ賞、菊池寛賞受賞。主著に『コラムばか一代』『日本人の忘れもの』(産経新聞社)、『産経抄それから三年』(文藝春秋)など。