雑誌正論掲載論文

世はこともなし? 第94回 宙吊り心柱の秘密 石井英夫

2013年03月25日 03:00

「わが国が直面する最大の危機は、日本人が自信を失ってしまったことにあります」

 1月28日の所信表明演説で、安倍晋三首相はそう訴え、こう締めくくっていた。「皆さん、今こそ、世界一を目指していこうではありませんか」「『強い日本』を創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です」

 なるほど、輸出大国だったはずの貿易収支が赤字に転じ、製造業人口が1千万を切った国の未来を悲観的にみる予測がある。しかし日本は電子部品や炭素繊維など素材製造では圧倒的に優位にあるし、新しい治療法を開発するiPS細胞という世紀の発明もある。

 日本再生の可能性はあるぞよと思っていたところへ、半導体研究者・志村史夫氏(静岡理工科大学教授)から贈られた改訂新版『古代日本の超技術』(講談社ブルーバックス)を読み、うんやっぱりとわが胸をたたいた。

 志村さんは現代のハイテクを知り尽くした半導体結晶研究の工学博士だが、コチコチの理系人間ではない。アインシュタインと夏目漱石とフーテンの寅を熱狂的に愛するファンで、扶桑社の編集者に紹介され、前著『寅さんに学ぶ日本人の「生き方」』を読んでただびっくりした。

 フーテンの寅の生き方を通じて日本人に反省を迫る本だった。衣食足りて礼節も廉恥心も失った日本人に強く覚醒をうながす書なのだった。

 さて問題は、古代日本の超技術である。

 志村さんによると、昨年完成した東京スカイツリーにはなんと古代の心が生きている。昔の遺物の構造や仕組みが使われているというのだ。

 現存する世界最古の木造建築は法隆寺で、その五重塔をはじめとする日本古来の木塔には必ず古代日本が誇る伝統的技術が使われている。五重塔に代表される仏塔の姿、形の美しさにはうっとりするばかりだが、これまで地震国日本にあって、木造の建築物である木塔が地震に倒れたという例はない。

 高さ96メートルの東大寺七重塔や同81メートルの法勝寺八角九重塔が奈良や京都にそびえ立っていたとき、M6以上の地震は20回以上におよんだが、彼らは倒れなかった。大正12年9月の関東大震災でも木塔は1基も倒れていない。

 奈良は室生山の斜面の杉木立のなか、室生寺五重塔そのものは1998年9月の台風7号で大きな被害を受けたが、しかし倒壊はしなかった。

 仏塔が倒れないわけはどこにあるか。それは塔の中心を貫く太い心柱に秘密があるという。

続きは月刊正論4月号でお読みください

■コラムニスト・元産經新聞論説委員 石井英夫 昭和8年(1933)神奈川県生まれ。30年早稲田大学政経学部卒、産経新聞社入社。44年から「産経抄」を担当、平成16年12月まで書き続ける。日本記者クラブ賞、菊池寛賞受賞。主著に『コラムばか一代』『日本人の忘れもの』(産経新聞社)、『産経抄それから三年』(文藝春秋)など。