雑誌正論掲載論文

安倍総理 戦後最大の戦い

2018年09月05日 03:00

産経新聞論説委員・政治部編集委員 阿比留瑠比 月刊正論10月号

 九月の自民党総裁選は、立候補している石破茂元幹事長には悪いが、既に勝負はついている。そもそも、国政選挙で五回連続圧勝し、日本経済を大きく回復させた総裁のクビをすげ替えようとする動きに、どんな大義名分があるのか甚だ疑問である。

 従って、今回は安倍晋三首相の連続三選を前提にして、今後の見通しについて書きたい。

 まず、最大の不確定要素は北朝鮮問題である。六月十二日にトランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長が史上初の米朝首脳会談を行い、朝鮮半島の非核化で合意したにもかかわらず、その後、進展らしい進展はない。

「これから長丁場になるだろう」

 安倍首相は米朝会談の前夜、周囲にこう語り、拉致問題を含めたさまざまな交渉は、そう簡単には進捗しないだろうと予測していた。その意味では、日本政府は現在、何ら焦ってはいない。

 だが、米国はどうだろうか。米朝会談前後、盛んに金氏を持ち上げ、友好ムードを演出していたトランプ氏が、現状に苛立っているのは間違いない。十一月には、政権の是非を問う中間選挙が待ち構えており、それまでに一定の前進がみられなかった場合、米国が何らかの実力行使に出ることは十分あり得る。

「まずは北朝鮮がまだ放棄していない核施設に、米軍がピンポイント攻撃を仕掛けるのではないか」

 政府高官はこんな見方を示す。米国が本気で金政権を倒そうとする場合は全面攻撃をかけるだろうが、とりあえずは限定攻撃で脅し上げるというわけである。

 そもそも、シンガポールでの米朝会談に臨む金氏は、明らかに緊張しており、米国を強く恐れていることは一目瞭然だった。韓国の文在寅大統領と会談した際の余裕は全く見られなかった。

 そしてトランプ氏との会談では、「拉致問題を解決すれば日本から経済支援が得られる。私の親友のシンゾーに会った方がいい」と説くトランプ氏に対し、こう踏み込んで述べていた。

「安倍首相に会ってもいい。この問題で私はオープンだ」

 にもかかわらず、米朝会談後、二カ月以上がたってもほとんど何も進んでいないのはなぜか。独裁者といわれる金氏は、考えられていたよりも軍部や工作機関である統一戦線部を掌握できていなかったのではないだろうか。そのため、北朝鮮国内での意思統一を果たせず、約束を実行に移せずにいるようにみえる。

 日本国内には「またいつもの時間稼ぎか」との見方もあるが、そもそも北朝鮮が対話路線に転じたのはなぜか。それは、日本が主唱して米国をはじめ国際社会が同調した対北制裁・圧力ににっちもさっちも立ち行かなくなったからである。

 国民に食うものも食わせられず、弾道ミサイルの連射と核実験で金氏の金庫も底がつき、路線転換をせざるを得なかったのだ。

 だから、時間稼ぎをしても北朝鮮に得はない。状況はますます悪くなるだけである。米朝会談後も、国際社会は制裁を解いたわけでなく、何かの支援を手にしたわけでもないのだから。いくら粘ったところで、拉致問題の進展なしでは日本もびた一文出さない。

 確かに北朝鮮は、これまで幾度も米国をはじめとする国際社会を騙してきた。しかし、今回は過去の事例とは重みが違う。米国の官僚や、せいぜい国務長官を相手に嘘をつくならまだしも、国家元首である大統領と直接会って確約し、それを実行しないとなると、米国は絶対に許さない。

 その先に待っているのは、米国の軍事攻撃と金氏自身の死なのである。

 金氏はこれまで、実兄やおじを含め、多くの人を一方的に処刑してきた。躊躇せずに他者を殺せる人間は、自分自身もいつ殺されるかと恐怖するものだろう。そして米国にはそれが可能なのである。

続きは月刊正論10月号でお読みください

■ あびる・るい 産経新聞論説委員・政治部編集委員。昭和41(1966)年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、産経新聞入社。政治部で首相官邸キャップなど歴任。