雑誌正論掲載論文

山尾志桜里 戦後民主主義が生んだモンスター

2017年10月15日 03:00

文藝評論家 小川榮太郎 × 大和大学専任講師 岩田温 月刊正論11月号

 小川 きょうは民進党を離党された山尾志桜里さんの不倫疑惑報道がテーマです。最初に申し上げておきますが私は元々、他人のことを倫理的に批判することは嫌いです。自分自身、全くほめられるような人間ではありませんし、彼女が何をしようとそれはどうでもいい。ご本人は不倫を否定していましたが、週刊文春が撮った写真をみると、お二人で車に乗っているときの山尾さんの表情は幸福感にあふれていて、思わず祝福したいくらいでした(笑)。愛が夜闇に紛れて花咲くことは誰も止められないのです。そんなことより山尾さんの国会質疑の劣悪さ、無意味な攻撃性こそが問題でしょう。夜の生活の方は家族会議で解決してくれ。我々国民としては彼女の昼間の生活の方こそ何とかしてほしい。

 岩田 全く同感です。こうした不倫疑惑を国政の大問題かのように扱っていることこそが、日本にとっては問題です。彼女の一番の問題点は「保育園落ちた 日本死ね」との文言を紹介して脚光を集めたことです。その論理でいけば今度は「不倫バレた 日本死ね」になってもいい。仮にも日本がなくなったら保育園もなくなるわけで、この言葉の軽さ、バカバカしさこそが問題でしょう。

 小川 日本の社会は民進党代表だった蓮舫さんの二重国籍問題は許容しましたが、山尾さんの件は民進党を揺るがす大問題になりました。二重国籍問題が見逃され、不倫疑惑が失脚の要因になるという本末転倒ぶりは一体、何なのでしょうか。

 岩田 おっしゃる通りで、山尾さんの問題はリベラル勢力にブーメランで批判が返ってきたということでしかありません。昨今、日本のリベラル勢力は国家の問題を真剣に問うことができないので、スキャンダルの追及に傾注してきました。自民党議員の不倫問題の追及の際そうでしたが、民進党は目指すべき社会像を提示できないものだから、大衆に分かりやすいスキャンダル追及に走らざるを得ないのですね。これでは政治の自殺です。

 小川 よく分かります。そうしたスキャンダルは政党が問うべきことでも、国会が問題にすべきことでもありません。「週刊文春」にこそふさわしいテーマであり、本来、この「正論」にもふさわしくないテーマでしょう(笑)。旧民主党が下野して以降、民進党になってもまともな政策提言がまるでできぬまま、週刊誌レベルの話に血道を上げている。これこそが国家の一大スキャンダルですよ。

 岩田 付け加えさせていただくと、集団的自衛権を認めたら戦争が始まるとか徴兵制になるといって、民進党はことあるごとに国民を脅してきました。しかし現実に集団的自衛権が認められても徴兵された人はいません。北朝鮮情勢が緊迫する中、多くの国民は「安保関連法案を通しておいて良かった」と考えているはずです。民進党には、政府・与党の足を引っ張るために国民を脅すか、スキャンダルを探して誰かを叩くか、しかない。とうてい、国政政党のやることではありません。

 小川 脅しとスキャンダルか。国政政党の任ではなくまるでヤクザのビジネスじゃありませんか。

 今回の一件は、「スキャンダルの追及にウツツを抜かすのは一度、やめなさい」という警告であるように思えるのです。民進党は自らの存在意義を問い直さず、単に山尾さんを離党させて終わり。こんなことをやっていると、日本の野党はどんどん存在感がなくなり、最後に残るのは共産党だけになりますよ。実際に国会での質疑や政策提言をみると、とにかくきちんとしたフォームがある反政府野党は共産党だけです。非常に深刻な問題ではないでしょうか。

 岩田 全く同感です。二大政党制ということがよく言われますが、これでは到底、無理。共産党は二大政党の一翼にはなり得ないし、してはいけません。本来なら、自民党よりやや左の政党があったとして、もっと現実的な政党でなければならない。ここで民進党は、スキャンダル追及や国民への脅しにケジメを付け、きちんと国会で政策を示していく必要があるでしょう。例えば「大きな政府」でもいい、目指すべき社会像をしっかり示してもらいたい。前原誠司新代表はある種の社会像を打ち出そうとしている点は評価できるけれども、何を言っているのか分からないところがあります。「オール・フォー・オール」もそうでしょう。全員が全員のために、という意味なら全体主義ですよ。

 小川 野党が崩壊する徴候は何年も前からありましたが、問題の根源を探っていくと、小沢一郎さんによる政治改革が分水嶺で、小沢さんはGHQ以上に日本の政治を破壊したと思いますね。

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■ 小川榮太郎氏 昭和42年生まれ。大阪大学文学部卒業、埼玉大学大学院修士課程修了。日本平和学研究所理事長。著書に『約束の日 安倍晋三試論』『小林秀雄の後の二十一章』(幻冬舎)、『天皇の平和 九条の平和 安倍時代の論点』(産経新聞出版)など。

■ 岩田温氏 昭和58年、埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大大学院政治学研究科修士課程修了。専攻は政治哲学。著書に『逆説の政治哲学 正義が人を殺すとき』(ベスト新書)、『平和の敵 偽りの立憲主義』(並木書房)など。