雑誌正論掲載論文

日米朝・開戦の時 戦えない国家・日本でいいのか

2017年10月05日 03:00

ジャーナリスト・麗澤大学特別教授 古森義久 月刊正論11月号

 北朝鮮の核武装への疾走が全世界をますます激しく揺るがすようになった。国連安保理での九月十一日の北朝鮮に対する新しく厳しい経済制裁採択がその例証の一つである。

 北朝鮮が最大の敵とするアメリカは軍事手段をも含めての対決姿勢を険しくする。そして日本にも重大な危機が迫る。

 こんご北朝鮮の核とミサイルの脅威による国際危機はどう動くのか。日本の安全保障になにを意味するのか。私がいま駐在するワシントンでのうねりを基点に報告しよう。

 トランプ政権は北朝鮮の核兵器とICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発をアメリカ自体の国家安全保障へのいま最大の脅威とみて、現状を¬明白な現在の危険」とみなし、必死に対処している。北朝鮮が核爆弾を小型化、軽量化し、ICBMの弾頭に装備して、アメリカ本土にまで届く態勢を築くことの阻止である。

 アメリカや日本、いや全世界にとっても北朝鮮の金正恩政権による八月の二回のICBMとみなされるミサイルの発射と、九月三日の第六回目の核爆発実験は目前の重大危機としての衝撃となった。

 そのうえに九月十五日には北朝鮮は日本上空を飛ぶ長距離ミサイルを発射した。ミサイルは北海道の空を飛び、北太平洋に落下した。日本を愚弄するような敵対的行動だった。

 そもそもトランプ政権は北朝鮮の核兵器開発自体を絶対に認めないという歴代政権と同じ政策を堅持している。ただしそのためには軍事攻撃という手段も選択肢の一つだと明言する点がオバマ政権とは異なる。だがなお当面は北朝鮮への経済制裁という非軍事の手段をさらに厳しくする構えを明示した。国連での最近の動きがその結果だった。

「トランプ大統領からはこの北朝鮮問題はなお可能な限り平和的な方法で解決することを指示されている。しかし同時に軍事的な手段をも準備しておくことがアメリカ国民、そして大統領に対する私たちの責任でもある」

 九月十一日、ホワイトハウスの国家安全保障会議のアジア担当高官は日本からの拉致問題の訪米団代表にこう語った。

 この言葉がトランプ政権の北朝鮮戦略の全体像を簡潔に描写しているといえよう。

 トランプ大統領自身が¬あらゆる選択肢が机上にある」と頻繁に述べるように、アメリカ当局は非軍事から軍事まで多様な手段を準備しながら北朝鮮の核兵器保有という野望を粉砕しようと試みているのだ。だからなお最悪の場合には米朝間の軍事衝突や戦争という不運な事態の可能性も決して完全には排除できないのである。

 アメリカ側のその北朝鮮核兵器開発を阻むための多様な選択肢を簡単にまとめると、以下のようになる。その根拠はトランプ政権の当局者たちが実際に明かした情報や政権に近い専門家たちの言明である。なかには実現性の低い手段、トランプ政権が反対する手段も含まれる。

【非軍事的手段】

・交渉(二国間、あるいは多国間)

・対話(米朝間、あるいは韓国も含めて)

・経済制裁(国際的とアメリカ独自)

【準軍事的手段】

・電磁波攻撃(北の発射直前のミサイルに対して)

・サイバー攻撃(同)

・レーザー攻撃(同)

・実験発射ミサイル迎撃(発射されたミサイルを飛行中に撃墜)

・レジーム・チェンジ(金正恩政権崩壊の画策)

 【軍事的手段】

・先制攻撃(核とミサイル拠点の破壊⦆

・予防攻撃(北が攻撃準備を始めた段階での破壊)

・北最高首脳部破壊(いわゆる斬首作戦)

・全面戦争(米韓軍と北朝鮮軍の戦い)

 以上の多様なオプションを補足説明するならば、まず「交渉」や「対話」にはトランプ政権は明確に反対している。ただし北朝鮮が核開発の放棄の姿勢を明示した場合なら対話に応じるという態度である。この態度はオバマ政権も同じだった。

 準軍事的手段の電磁波やサイバーの攻撃はミサイルや爆弾による目にみえる破壊攻撃ではないという点で、純粋な軍事手段と異なる。だが発射準備中の北のミサイルや核兵器をシステムとして骨抜きにする威力を発揮しうる。

 レジーム・チェンジ(政権変更)はアメリカによる直接の金正恩政権の打倒ではなく、側近をあおってクーデターや暗殺を起こさせるというような政権崩壊を間接的に起こす作戦である。米側はこの手段をなおあきらめてはいない。

 米側でよく語られる「予防攻撃」はpreemptive strikeが原語である。この攻撃は単なる先制攻撃(first strike)と異なり、敵がすでに攻撃準備を始めた段階で攻撃し、その準備態勢を除去するという意味となる。

 トランプ政権にとっては以上のように多様な作戦がなお可能なのである。だが前述のように当面は非軍事の経済制裁主体の圧力強化策を最優先するというわけだ。

 しかしなお北朝鮮の核兵器開発も長距離ミサイル開発も急速な前進のペースを緩めてはない。逆に加速である。だからアメリカにとっても脅威や危機は拡大する一方なのだ。

 そんな情勢下、アメリカの一部専門家の間にはこのまま北朝鮮の核兵器保有を容認すべきだとする主張が出始めた。

 トランプ政権からも強く排除されるこの容認論は現段階ではごく少数の意見だが、きわめて危険である。こんご勢いを得ると、アメリカの安全保障だけでなく日米同盟や日本にとっても非常に危険な要因を生むことになる。

 この核武装容認論は北をもう非核の状態へ戻すことは不可能だとして、核兵器保有を認め、改めてその北の核戦力を抑止あるいは封じこめる策を考えるべきだという骨子である。この主張は北朝鮮の核武装を阻むための軍事手段はとってはならないし、実際にとれないのだ、という意見と重なりあっている。

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■ 古森義久氏 昭和16(1941)年生まれ。慶應義塾大学卒業。毎日新聞社ワシントン特派員などを経て産経新聞社入社。ワシントン支局長、中国総局長など歴任。現在、ワシントン駐在客員特派員。近著に『戦争がイヤなら憲法を変えなさい』(飛鳥新社)。